先日、久しぶりに「ミスター円」と異名を持つ榊原元財務官が報道に登場しました。同氏は、ドル円相場は更に下落もあり得、1ドル=160円に達する可能性があると語ったそうです。
2023年前半の為替相場では、主要通貨の中で日本円の下落が際立ちました。年初には、主要中央銀行が金融政策で引き締めを積極的に進め、年前半には金利がピークに達して、年末には利下げすら有り得るとの予想を多く耳にしました。しかし、実際には、インフレの抑制に手こずり、金利の引き上げ幅も予想を上回っています。このシナリオの狂いは、中央銀行の金融政策をより引締め姿勢に傾かせており、為替相場での円安に動きにも影響しているのです。
一方で、日本銀行は、超緩和的な金融政策を堅持するとの見通しを示し、こうした状況が2024年まで続くとの予想もあります。そうなると、主要通貨との金利差は縮小せず、円安の動きが止まらないこともありうるでしょう。日銀が、超金融緩和策であるマイナス金利とイールドカーブ・コントロール(YCC)と呼ばれる金利抑制策をいつ、どのように転換するかは、今後の為替相場を大きく左右するでしょう。
「ミスター円」は、日銀が金融政策を引き締め始めるのは、2024年後半になると予測しているようです。このため、円安が続くと予想しているのでしょう。しかし、日本銀行が、インフレ見通しを変えて、政策転換に踏み切るとの予測も出ています。もし早期に、イールドカーブ・コントロールの調整に動いた場合は、市場にとってはサプライズとなり、円が反発するとのシナリオも急浮上します。ただ、YCCの変更は、10年日本国債利回りの上限ガイドラインを0.50%から1.00%程度まで引き上げるにとどまる可能性もあります。この場合、10年日本国債利回りは0.90%程度までしか上昇しないとの見方も多いのです。そうすると、米ドルと日本円の金利差は対して縮小せず、日本円の買い戻しは限定的になるでしょう。130円台半ばもしくは132円程度になるでしょう。
また、為替相場を動かしているのは、ファンダメンタルズの激変も見逃せません。貿易赤字の拡大によるドル買いの実需や、円資産への投資ニーズの高まりから、逆に円安ヘッジを組み込む円売りニーズは顕在化しやすいことも忘れてはなりません。円安に振れた際には、ドルなど主要通貨への転換を進めて、皆さんの資産を守る行動を採っていただきたいと思っています。