コラム お金の知識を高めるコラム Vol.77 拡大する金融当局と市場のギャップ

お金の知識を高めるコラム

Vol.77 拡大する金融当局と市場のギャップ

2023年10月、金融市場では、米・欧金融当局により利上げが継続されることを悲観的に受け止める傾向が強まり、金利先高観が広がって、急ピッチで市場金利の上昇が起こりました。金利を引き上げてきたにもかかわらず、インフレ率の上昇に落ち着きが見えず、さらに金利を引き上げなければインフレを制御できないことを懸念したものでした。

ところが、11月に入るとインフレ率の上昇幅が、小幅ですが縮小に転じたことにより、政策金利のターミナルレートは達成されたとの見方が広がって、金利の上昇の流れは一変し、金利は近い将来さがり始めるとの楽観的な観測に転じました。おまけに高水準の金利によって経済成長が圧迫され、景気の腰折れが起こるとの見通しまで加わり、リセッション入りの懸念から金利は急低下せざるを得ないとの見方が拡大しました。

この間、経済指標は景気が腰折れるほど悪くなったかと言えばそうでもありません。肝心のインフレ指標にしても引き続き高い水準にあり、米欧金融当局の目標とする年2.0%上昇からは程遠いということも変わりません。これほどの『思惑』の差を生んでいるのは、当局と市場参加者のコミュニケーションが取れていないせいだという考えもありますが、筆者は、市場の見方が現実よりかなり先走っていることに尽きると考えます。

12月のFOMC(連邦市場委員会)では、政策の見直しは行われず、政策金利は5.25~5.50%の水準を維持することが決められました。これで9、11、12月と三会合連続での政策据え置きとなりました。FRBの政策の基本は「金利を高い水準に維持してインフレを抑え込み、コントロールできているとの確信を得ること」です。経済見通しは、米国の経済成長がやや下振れしているものの、雇用市場は引き続き堅調であり、これが消費を支えて底割れすることはないだろう、というものです。これを基本線に考えれば、インフレ圧力が相当強まらない限り、既に十分に景気抑制的な水準にある政策金利を引き上げても、経済成長を阻害することはまず無いと言えるでしょう。また、景気の底割れのような事態に陥らなければ、2024年内に利下げに転じることもないでしょう。この局面では、楽観的にも悲観的にもならず、状況を見極める時間だと割り切って、リスク資産にはやや慎重な投資スタンスを維持するべきであろうと思います。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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