2020年、人類を苦しめた新型コロナウイルスとの闘いはまだ終わりが見えていません。感染にはまだ有効な歯止め策があるわけではありません。ロックダウン措置は部分的になってきたとはいえ、世界的に行われており、人々の行動を抑制しています。不自由を感じない人はいないでしょう。
そんな中、世界中の希望の光になりそうなのが、ワクチン接種です。2021年の経済予測は、ワクチンの早期普及に期待したものです。IMFは今年1月に世界経済見通しを更新し、2021年の世界経済成長率見通しを5.5%成長と発表しました。世界の主要国が追加経済対策を相次いで実施したことに加えて、ロックダウンも二度三度と実施を重ねるにつれ、運用の仕方が改善されたこと、そしてワクチンが実用化段階に至ったことがその理由です。このままのペースで需要が続けば、2021年中には世界経済はコロナ禍前の成長軌道に回帰するというわけです。ただ、この予測は先進国と一部新興国で21年夏までに、世界のほぼすべての国で2022年後半までに新型コロナウイルスのワクチンが普及するというシナリオを前提にしています。
実際には、ワクチン普及にはハードルがあります。ワクチンの製造量には生産能力の上限があります。そして、ワクチン購入には費用が掛かります。世界には日常の食糧さえ満足に調達できない国や地域はたくさんあるのが現実です。また、ワクチン接種を行うには、配送のインフラ、必要な機器の調達・配備など、ロジスティクスの問題があります。さらに、ワクチンは副反応の不安などの心理的な壁もあります。こうした複雑な問題を解きほぐし、短期間にワクチンを行きわたらせることができるかが人類にとってのハードルになるでしょう。接種が始まった英国や米国でも、ワクチン接種が計画比で進んでいるとは言えないそうです。先進国でも欧州連合や日本では、本格的な接種はまだこれからという段階です。
現時点では世界経済の回復は、感染再拡大の状況や変異種の影響、ワクチンの普及ペースに左右され、その影響は見極められていません。IMFも、ワクチン普及が停滞したり、感染再拡大が深刻化したりした場合は、成長率は少なくとも約0.75%程度は押し下げられることをリスクシナリオとしてヘッジしています。金融市場は期待が先行しとても強気です。それはそれでよいことなのですが、世界はまだ「大きな不確実性」の中に包まれていることに注意しておくべきでしょう。