今年1月の米国経済統計は、米国経済が良好な状態にあることを示唆しています。雇用市場は堅調に推移しており、雇用の需給のタイト感は所得の増加を支え続けます。賃金の上昇は個人消費を支え、企業業績の再拡大に結び付きます。2022・23年と米FRBは積極的に利上げを実施し、経済活動にとって十分に抑制的な水準まで引き上げたにも関わらず、景気は拡大しました。昨秋、雇用がやや減速した際には、インフレ圧力が緩和されるトレンドが明確になるとの期待が拡がりましたが、その期待と現状は乖離しています。
こうなると、米FRBが早期に利下げを開始することは難しくなるでしょう。米国経済が高い水準で雇用を創出し、十分に力強さを維持する状況にあるとすれば、FOMCは直ぐには金融政策を変更せず、インフレ動向を見極めるためにより時間を掛ける、すなわち様子見のスタンスを維持するでしょう。実際にパウエル議長は3月FOMCでの利下げ実施は可能性が相当に低いことを示唆しました。
今年最も注目されるテーマが「ディスインフレ」であることは前稿で指摘しましたが、インフレ圧力が緩和すれば、金融政策も緩和方向にシフトするため、金融市場では1月初めに米ドル金利が大幅に低下しました。一方、日本銀行は高まるインフレ圧力に対応するため、金利緩和状態を改める、すなわち『出口戦略』としての利上げを3月にも実施すると予想されていました。それが実現するとドル円の金利差は縮小することが予想されます。しかし、冒頭に解説した状況が続くと、ドル金利は大きく低下する余地はないでしょう。加えて日本銀行首脳が、出口戦略の後も金融は緩和的なスタンスを維持すると示唆したことで、ドル円金利差は大幅に縮小することを期待できなくなってきています。
しかも、今年が米国大統領選挙の年であることを考えると、バイデン政権は景気刺激策を打ち出すでしょうし、対抗するトランプ陣営も、より景気を刺激する政策を掲げて来るのではないでしょうか? そうなると米国経済は景気減速するどころか、成長を続ける「ノーランディング」シナリオに収斂する可能性も出てきます。この場合、ドル金利の低下幅は更に小さくなり、むしろ米ドル高に振れる可能性も出てくるでしょう。
市場では、米国経済が力強く成長を続け、消費も高い水準を保ち、企業業績も良好を維持する、との強気の見方が拡大。これが米国株価の高値更新が続いている背景です。米国主導の強気な「ノーランディング」シナリオは当面続きそうです。