コラム お金の知識を高めるコラム Vol.73 サウジアラビアの原油減産により原油相場は先行き不透明に

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Vol.73 サウジアラビアの原油減産により原油相場は先行き不透明に

昨年、価格が上昇した最たる例は原油でした。読者の皆さんも、ガソリンの価格が上がったという肌感覚はあると思います。そして原油価格の上昇はモノの値段の上昇を通じてインフレ圧力を高めました。ところが、今年は一転して原油価格が急落。理由は新型コロナウイルス関連の規制が解除された後に回復すると見られていた「需要」が予想されたほど伸びなかったためです。米国も中国も、石油に対する需要が伸び悩んだことで、原油価格は均衡を失い、6月には1バレル=70ドル近辺まで下落しました。

原油価格の下落は産油国にとっては損失です。そこで産油国のリーダーでもあるサウジアラビアは、石油市場の安定と均衡の下支えを目的に、OPECプラスの予防的措置を強めることを目指す姿勢を明確にし、7月から減産を始めました。ある試算では、サウジが政府支出を賄うに十分な収入を得られる原油価格は1バレル=100ドル水準であると言われています。産油国の中では比較的穏健な対応をしてきたサウジですが、背に腹は代えられないということです。

以来、サウジは日量100万バレル減産し、産油量を日量約900万バレルに抑制しています。これは数年ぶりに低水準の産油量で、更に減産量の拡大や長期化を示唆するなどもしています。また、経済制裁に苦しむロシアも、原油価格の下落は収入の減少に繋がるため、サウジに同調して価格の上昇を企図し、8月は日量50万バレルを削減、9月からは日量30万バレルを削減することを決めました。

この減産措置は、原油需給を引き締めることには成功しました。原油価格はこのところ回復しており、1バレル=85ドル近辺まで上昇し、約3カ月ぶりに高値を付けました。一方で、中国の国内需要が低調であることや、米国経済のリセッション懸念はくすぶっており、景気が見通せません。サウジの価格水準維持の姿勢は頑なで、今年前半にインフレ圧力の緩和に一役買った原油価格の動向は、世界経済のインフレ見通しのワイルドカードになりかねません。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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