7月31日、米連邦準備理事会(FRB)は、政策金利を0.25%幅で引き下げました。これにより、銀行間で資金を取引するフェデラルファンド・レートは2.00-2.25%に低下しました。FRBは2015年12月から2018年12月に掛けて、政策金利を7回にわたって引き上げて金融引締を行ってきましたが、この流れがわずか7ヶ月ほどで、真逆の方向―金融緩和に動き始めたことになります。
背景には、世界経済の成長が鈍化していることがあります。世界経済の成長率(前年比年率)は2017年は3.8%、2018年は3.6%でしたが、最新のIMF予想では2019年は3.2%で、これはリーマン・ショック後最低の成長率です。これに、米中通商摩擦のエスカレートによる、一段の成長減速が懸念されているほか、英国のEU離脱が合意なき無秩序な離脱になるとの懸念など、先行きを不透明にする要因は多いという現状があります。
そして、金融市場では、そうした懸念が先行する形で増幅し、米国の株価こそ史上最高値をうかがうものの、金利は低下傾向を鮮明にしています。前述のFRBによる{予防的な金融緩和}も、市場を追認する形の利下げ実施になってしまい、市場ではさらに懸念を強めて、追加の利下げを織り込む展開になっています。
FRBは米国の中央銀行ですが、世界最大の経済規模を持つ彼らの行動は世界の金融政策や経済状況に影響を与えます。8月7日には、ニュージーランド中央銀行が政策金利を0.50%幅で引き下げ1.00%としました。タイ中央銀行も、政策金利を0.25%幅引き下げて1.50%としました。インド準備銀行も、0.35%幅の利下げに踏み切りました。いずれも、減速しつつある国内経済を下支え刺激するために、あるいは自国通貨が高すぎる状況を改善する目的で利下げ措置に動いたのです。
FRBの利下げを契機に、前回利下げ後のパウエルFRB総裁のコメントに反して、「利下げの始まり」の様相を呈してきています。少なくとも、市場は、米ドル金利が低下する中、相対的に自国通貨での金利を下げる余地を各国中央銀行に与えるという世界的な流れを読み始めています。米中通商摩擦の激化は、世界経済の減速懸念を強め、ディフェンシブな相場状況をもたらすでしょう。当面、米・中・欧・日の中央銀行を含む、世界的な金融緩和策の発動が続きそうです。金利での着実な運用には、早めに動いておいたほうが良い状況です。