コラム お金の知識を高めるコラム Vol.74 消費主導の経済成長モデル?

お金の知識を高めるコラム

Vol.74 消費主導の経済成長モデル?

経済が何によって支えられるかは、国によって大きな差があります。例えば、米国経済はGDPの約68%を個人消費が占めます。世界第1位の経済規模であり、なおかつ消費が大きいということは、それだけ大きな市場を形成していると言えます。米国経済の外部依存度は低くなるわけです。

一方で、世界第2位の経済規模を持つ中国経済は、個人消費のGDP比率は38%程度しかありません。経済拡大により家計の所得が一段と増加すれば、個人消費の拡大余地は大きく、今後、個人消費が中国経済の成長の原動力になり得ます。「新常態」とは、個人消費が経済発展を牽引するという意味が色濃く、金融市場でも中国政府が経済政策を実施する際、その点に注目しています。

最近では、パンデミックによる経済危機に際し、世界の主要国が個人消費の喚起策として、特別給付などを消費者に対して実施しました。アジアでは、中間層の形成拡大とともに消費が鍵を握ると言われています。今後の経済発展のメインドライバーは個人消費にあるとの見方が広がっています。

一口に経済成長と言っても、どのように目標を実現するかは異なるアプローチがあります。中国政府は「中国製造2025」のスローガンのように、中国を世界有数の産業・技術大国に育てあげることを重視しているように見えます。ただ、インフラ投資などの乗数効果は低下してきています。投資促進により経済成長を積み上げる投資主導の経済成長が、過去のように実現できる環境かどうかは不透明です。

中国政府はパンデミック後、厳しいロックダウンなど「ゼロコロナ」政策を採りました。このため、家計はいざというときのために保守的になりがちです。そして消費は“水もの"なところがあるので、消費喚起のために政府が過剰に支出することはリスクが高いと考えているかもしれません。個人消費を支援しても浪費に使われてしまうという懐疑心があるのでしょうか? 2023年8月に共産党中央委員会機関紙に掲載された習近平国家主席の演説によると、政策の基本は、贅沢な消費を禁じ、国民に忍耐ある質素な生活を促すと強調するくだりがあります。

ただ、最近の中国経済指標からは、消費の落ち込みが更に成長期待を萎ませ、潜在成長率を下げる悪循環に陥るリスクを示唆しています。中国経済が長期的なダメージを受けないよう、中国政府がどのような経済政策を採るかは重要な鍵です。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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