11月10日、格付け会社ムーディーズは、米国連邦政府の長期発行体格付けを最高位のAaa(トリプルAに相当)のまま維持するものの、格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げると発表しました。これは『米国債』の格付けを見直す検討を始めるということです。格下げまでは行きませんが、格下げをする可能性が高まりました。今年8月には、別の格付け会社であるフィッチ社も、米国債の格付けを「AAA」から「AA+」に1段階引き下げました。S&P社は遡ること2011年に、米国債の格付けを最高位の『AAA』から1段階引き下げて、いまでもそれを維持しています。
米国債は、米国政府の高い信用力と経済力に裏打ちされていることから、世界で最も安全な資産と位置付けられてきました。最高位の格付けがつけられていたのもそれが理由です。ところが、財政赤字の膨張に歯止めがかかっていないことや、米国議会内で民主党と共和党の対立が深まり、政治的な二極化が進んでいることで、財政再建計画は一向に進展しません。政府の閉鎖の危機も繰り返し問題となるなどしています。2024年には大統領選が控えています。政治的対立の深刻化は、妥協の余地を狭め、議会での意思決定を難しくしています。こうした先行きの不透明感が、米国債の地位を脅かすことになってきているのです。こうしたリスクが高まっていることから、格付け会社も米国債を最高位に格付けしていて、おぼつかなくなってきたということでしょう。
米国債の格付けが下がれば、米国債の利回りには上昇圧力が掛かります。そうすると世界最大の米国債券市場にも影響します。民間の企業の債券も米国債との利回り格差で動いていますので、米国債の利回りが上昇することで、民間企業の資金コストも上昇する可能性が高まります。もちろん、米国政府の資金コストも上昇して財政を圧迫します。インフレ圧力で金利が引き上げられたうえに、格下げの影響で資金コストが上昇すれば、米国経済への影響も大きくなります。
ちなみに、日本の財政状況は、米国よりも深刻です。日本国債の格付けは、かつて最高位の「AAA」でしたが、今や、ムーディーズで「A1」、S&Pで「A+」です。岸田政権は、財源の裏付けなしに「減税」を提案していますが、歯止めのかからない財政赤字に手をつけず、いったいどうするつもりなのでしょう?
アディエモ財務次官は声明を発表し、「ムーディーズによる格付け見通しのネガティブへの引き下げに同意しない」とし、「米国債や財務省証券は世界有数の安全かつ流動性の高い資産だ」と述べました。このニュースは、ある程度、市場には織り込まれていると考えられますが、長期的には米国の資金調達コストの上昇や利回りの上昇を通じて、米国経済への負担になり、民間企業の長期資金調達にも影響が出るでしょう。