2023年のドル円為替相場について、金融市場では円高を予想した参加者が多数派でした。しかし、その予想は大きく外れたと言わざるを得ません。第一の見込み違いは、米FRBの金融引き締め姿勢が予想よりもずいぶんタカ派だった点です。当初は2023年終わりまでに利上げは一巡し、ドル円為替も日米金利差からの影響が小さくなるとの予想でしたが、米FRBはまだ利上げカードを温存した状況にあり、金利差はすぐに縮小傾向にはいるとは考えにくいです。
第二の見込み違いは、インフレ圧力を過小評価していたということです。インフレ状況はより厳しく、物価上昇が賃金の上昇に繋がり、サービス業を中心とする物価を押し上げる圧力となりました。今では政策金利が長く高いままに据え置かれるというシナリオを参加者のほとんどが認めるようになりました。そして第三の予想外は、日本銀行が2%の物価安定目標の達成を見通せるような状況にはないとの見方を変えなかったことです。日本も物価動向だけで言えば既に2%目標を大きく上回っています。しかし、日本銀行が現時点で利上げを行うことは経済への悪影響の方がはるかに大きく、合理的であるとは言えません。日本の金融政策の見直しは、為替ではなく賃上げの動向に大きく左右されることになるでしょう。
果たしてこのまま円安が続くのでしょうか?金利差以外にドル高円安が進む背景には、構造的な問題があることを忘れてはなりません。米国経済指標は引き続き堅調で、米FRBは引締めスタンスを継続するでしょう。一方で、成長戦略を描けていない日本経済の先行きは見通せず、日銀の金融政策は超緩和状態を解除できても、金利を幅を伴って上昇させることは難しい状況です。日米金利差が維持されるとすれば、市場参加者は米ドル買いを進めやすく、円安圧力は続くと見るべきでしょう。主要通貨間では、米国経済の安定感と欧州の地政学的リスクへの不安感が目立ちます。中東でもキナ臭い動きがあります。
日本政府は、ドル円の急激な動きに対してはドル売り介入を単独で実施するとしていますが、介入の効果は一時的であると市場参加者は見ています。これは上述のとおり、構造的な問題だからです。日本政府単独では、為替介入したとしても円安の流れを阻むことはできないでしょう。筆者は今年年末までに、1ドル=150円をターゲットと言ってきましたが、10月時点で達成してしまいました。しかも今回のドル高円安のクライマックスは、まだ先のようです。
引き続きドル円は上値を試す展開を予想しています。中長期には、170円や200円などの水準までの円安シナリオを描く必要もあるでしょう。もちろん、予測が外れることはありますが、不透明な時代だからこそ、「分散投資」が効果を発揮するのです。不測の事態に備えて、円資産だけではなく、ドルなどの外貨資産を持ち、「分散投資」を着実に進めてください。インフレと円安の進行は、投資行動を起こしてきた人と何も行動しなかった人の格差を広げる結果となりました。「資産防衛」のためには、「分散投資」からまず行動を起こすことです。