2022年は為替相場でドル円が激しく動いた年でした。ドル買いの動きを支えた材料の一つは日米の長期金利差拡大です。一時150円を超えるまで円安ドル高となりました。しかし年末にかけてはドル金利の上昇一服と、日銀の金融政策修正(=事実上の利上げ)を受け、日米金利差の縮小観測が強まり、ドル円は130円台まで下落しました。
しかし、為替相場を動かす要因は金利差以外にもあります。一つは貿易収支です。なぜなら貿易収支は黒字となってドルが手残りするか、赤字となってドルを支払うために手当しなければならなくなるかによって、為替相場での実需に直接関わります。日本の貿易収支は、2021年は1.8兆円の黒字でしたが、2022年は赤字に転落し、15兆円から18兆円の赤字収支になった模様です。それだけドルを買う実需が存在したということです。
貿易収支の赤字はモノやエネルギーの価格上昇によるもので、そう簡単に減少に転じる見通しは立ちません。そのため、2023年はさらに25兆円前後に膨らむとの予想もあります。需給面ではドル買いを支える要因です。
また、短期金利で見れば、米FRBは政策金利であるFF金利を4.25-4.50%から、5.00%を超える水準に早期に引き上げる見通しです。そして金利を高どまらせる意向を示しています。一方で、日銀が短期金利を引き上げるには相当の時間を要すると考えられます。そうなると、ドル円で円買い持ちのポジションを長期間キャリーすることに高いコストを支払うことになり、時間がかかれば円買いの参加者の分が悪くなります。
国の財政状況も心配です。岸田政権は、2023年度一般会計予算案を策定しましたが、総額は114兆3,812億円で、総額では初めて110兆円を超え、過去最大となりました。特に防衛関係費は急増し、前年比1.4兆円増の6.7兆億円を計上して、ミサイル防衛能力の強化などを図ることにしました。
しかし、日本には歳入の目処が立たなくなってきています。経済成長率が上がる努力を怠ってきた中で、一般会計だけが膨れ上がり続けており、増税はその失策のツケを国民に押し付ける格好になっています。
万が一、増税の議論に失敗した場合は、防衛費増額を国債発行で賄うという話につながる可能性もあります。そうなると、今年10月の英国危機のように、自国通貨売り・国債暴落というシナリオも全くないとは言えません。
こうしたファンダメンタルズを考えると、中長期では円高基調が続くと予想するのは難しいのです。終わってみればドル高だったという難しい一年になると考えています。