コラム タイ野菜でべジフルライフ 第11回 パクチー
第11回 パクチー
香菜
CORIANDER
ผักชี (パクチー)
タイ料理を食べたら誰もが口にするパクチーですが、これほど好き嫌いが分かれる野菜はないでしょう。嫌い度にも段階がありますが、料理にちょっとでも混じったら、たとえ取り除いて姿が見えなくてもダメという、筋金入りのパクチー嫌いもいますね。逆に熱狂的なパクチー好きもいて、世田谷にパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」を立ちあげた方がおります。前菜からメイン、デザートまでパクチーたっぷり料理が用意されているそうです。種を入手できるパクチー銀行なるシステムもあり、日本に帰国予定があるパクチー好きの方は、要チェックです。
昨年、天候不順でパクチーが高騰したことがあって困りました。ネギのない蕎麦のように、あるべき料理にパクチーがないとなんとも物足りないものです。ある時、サラダに使うために根を切り捨てようとしたら、タイ人が驚いて「モッタイナイ!」と持ち帰りました。パクチーは、葉よりも根の方が風味があり、タイ料理には、スープやヤムなど根の方が多く利用されています。
パクチーは、中国では香菜と呼ばれますが、あれはカメムシの臭いだという人もいます。実際に英語の「Coriander」、学名の「Coriandrum」は、ギリシャ語のカメムシ(Koris)とアニスの実(Annon)を合わせた「Koriannon」という言葉から来ています。また、タイ語で、飾りとしてパクチーを散らすことを「パクチー・ローイ・ナー(ผักชีโรยหน้า)」と言いますが、転じて飾ってごまかす「うわべだけの善行」ということわざになっています。
地中海地方原産で、古代エジプト時代から薬用に利用されてきました。日本には江戸時代に伝わって、寿司にも使われたことがありますが、定着しなかったようです。現在は、世界中で葉を香味野菜として、種(果実)をハーブとして利用しています。乾燥させたコリアンダーシードは、柑橘系の香りがして、インドカレーには欠かせないスパイスです。ヨーロッパでは、魚介、肉料理の臭み消しだけでなく、オムレツやマリネ、煮物からお菓子にまで風味付けとして幅広く利用されています。
ビタミンB、ビタミンC、カロテンが豊富で、消化を助け、リウマチや関節の痛み、風邪、偏頭痛、下痢を軽くし、食中毒防止、二日酔い防止効果があると言われます。最近ではデトックス効果が注目され、特に鉛やアルミニウムなどの有害金属の蓄積抑制・排出効果があるとされています。真偽はわかりませんが、千夜一夜物語では媚薬になると書かれており、インドでは精力増強剤にされているとか。また、タイ人が蚊に刺されないのはパクチーのおかげだとか、翌日に残るニンニクや酒のニオイ、さらには加齢臭まで中和させる消臭作用があるとも。
トムヤムやヤムなどタイ料理には欠かせない素材ですが、せっかく豊富に手に入るのですから、タイ料理以外にも楽しみたいものです。パクチーをキュウリや豆腐の上にたっぷりかけて、あるいは豚シャブサラダのようにサラダの主役にしてみると、新たなおいしさを発見できるはずです。タマネギと同量をみじん切りにしてドレッシングと和えるパクドレは、トマトにぴったりです。さらに天ぷらや炊き込みご飯、おひたし、ジェノヴェーゼ風のソースなどパクチーへの固定概念をとりはらってチャレンジしてみてください。
保存は、縦長の密閉容器に水を入れ、根をひたして蓋をする、或いは、ある程度のみじん切りにしてタッパーに入れて冷蔵庫に入れておくと長く保存できます。どちらも葉は水気をとっておいてください。デトックス作用の高いパクチーですから、飾りだけでなくメインとしてモリモリ食べていただきたいと思います。
青澤直子
健幸料理研究家(野菜ソムリエ&雑穀エキスパート)
健幸料理の店 SALADee
491/14-15 Silom PlazaGF, Silom Road