コラム お金の知識を高めるコラム Vol.92 米国株式市場に変調の兆し

お金の知識を高めるコラム

Vol.92 米国株式市場に変調の兆し

11月の米大統領選挙後、株式市場では景況感の改善や企業活動の活発化への期待が市場参加者の気分を高揚させ、楽観的なモメンタムを煽って「トランプバンプ」と呼ばれる投資行動が起こりました。

しかし、2月後半からは下げに転じ、米国株式市場のパフォーマンスは、年初来でマイナス5.25%、2025年2月につけた最高値6,114からはマイナス8.8%下げています(2025年3月11日執筆時点)。下げに転じた理由は、トランプ2.0の政策展開によって、米国経済の成長が鈍化することや世界貿易の不安定化への懸念が強まり、株価上昇のモメンタムが失われたことによります。特に、2025年に入って、過去2年間の株価上昇を主導した、テクノロジーや通信、一般消費財セクターが、変動率で下位に甘んじていることが注目されます。代わって選好されているのはヘルスケアや生活必需品など典型的なディフェンシブ銘柄です。これも株式市場の変化をうかがわせます。

実体経済面では、1月の米個人消費支出(PCE)統計で、自動車など財への支出が減少、サービス分野への支出にも減速感がみられました。トランプ大統領は外国からの輸入品に関税を課し、製造業者に対し、米国へ生産拠点を移転するよう迫る『ディール』を積極的に進めています。それに対しての国民からの反応は冷ややかで、世論調査によると、成人の約60%はトランプ2.0による関税賦課は物価上昇につながると予想しています。また、約44%が関税賦課は米国経済に悪影響を及ぼすと回答しています。こうした状況が続いた場合、米国経済の貴重的な底堅さが変化するとの懸念も浮上しかねません。

不確実性や不透明性はマーケットが最も嫌うワードです。猫の目のように目まぐるしく言動を変化させ、場当たり的にさえ見えるトランプ大統領がリードする政策展開には予測可能性は小さく、市場参加者は神経をとがらせています。当面、グローバルに金融市場は安定とは程遠い展開を強いられるでしょう。更に、実体経済にも悪い影響が出始めたりすれば、市場はより混乱し、ネガティブな流れになりかねないことに注意しておきましょう。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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