世界各国では、新型コロナウイルス対策を緩和する姿勢に転じています。タイ政府は、5月1日から到着時のPCR検査義務や隔離措置を撤廃、欧米諸国では入国時の措置を全廃した他、マスク着用すら求めない国も出てきています。一方で、引き続き厳しい『ゼロコロナ』政策を取っているのが中国です。
4月終盤に、数十人の感染が確認された首都・北京市では、当局が全住民の検査を実施。北京市全人口約2,200万人のうち約2,000万人が検査対象となって、5日間で3回のPCR検査が強制されました。4月に上海市で大規模に実施されたロックダウンの影響は、食料の調達にも市民が困難に直面するほどだったため、北京市の住民には、事実上のロックダウンへの警戒感が高まり、スーパーマーケットには食料品や日用品を買い求める市民の姿が多く見られたそうです。
新規感染者が数十人という都市でも、厳しいロックダウンは実施される方針を堅持しており、経済的には成長率を押し下げ『持続可能ではない』状況に陥るリスクが高まっています。なぜ、これほどまでに徹底的にコロナを抑え込むゼロコロナ政策に固執するのか? という疑問さえ投げかけられていますが、中国政府の姿勢は変わりません。
政策でも、手詰まり感が出てきています。パンデミックが始まった2020年には、中国政府は国内製造拠点での混乱を抑制したり、生産水準を高めたりする政策をいち早く実施して、経済成長をプラスに維持しました。金融政策でも、中国人民銀行が緩和政策を展開し、潤沢な流動性を供給したり、金利を下げたりして企業活動を下支えしました。しかし、現在の中国政府は、具体的な政策に欠けています。金融政策も、物価の上昇が続く中で、大胆な緩和策には踏み込めていません。
『ゼロコロナ』政策と年5.5%前後の経済成長実現という目標は相反しています。経済と市場の不確実性は増加しています。最も有効な手立ては、『ゼロコロナ』政策の撤回しかないと筆者は考えています。しかし、このままでは、中国株と人民元には引き続きダウンサイドの圧力が掛かるでしょう。そして厄介なことに、中国経済の低迷は、日本経済やアジア経済にとっても大きなリスクであることを認識しておく必要があるでしょう。