コラム お金の知識を高めるコラム Vol.90 2025年はタイ経済にとって、ターニングポイントになる年

お金の知識を高めるコラム

Vol.90 2025年はタイ経済にとって、ターニングポイントになる年

出だし順調なタイ経済。タイ政府は、国内総生産(GDP)成長率は2024年の2.7%程度に対して、2025年は3.0%を超えるとの予想を公表しています。タイ政府は昨年12月に、国民全員に1万バーツを配布する「デジタルウォレット」第2弾を実施、全国の最低賃金も引き上げ、個人や中小企業を対象とした債務救済措置を承認しました。こうした景気刺激策が消費を下支えしており、12月の消費者信頼感指数は前月の56.9から57.9へと上昇、3カ月連続の上昇となり、6カ月ぶりの高水準をつけました。当面、消費は堅調に推移する見通しで、これもタイ経済の成長を支える要因となるでしょう。

トランプ2.0は、タイ経済にとってはプラスもマイナスも考えられます。第2次トランプ政権は通商政策で、対中関税を60%へと引き上げる姿勢を打ち出しています。これが実施されると中国の経済成長率はさらに減速し、成長率は5.0%を割り込む一方、脱中国に伴う生産移転などは進み、ベトナム、台湾、タイ、マレーシアなどの経済にはプラス効果が相応にあると推定されます。一方で、米国向けの直接的な輸出、中国への部品・半製品輸出など間接的な輸出にはマイナスの影響が考えられます。タイ商工会議所大学(UTCC)は、米国向け輸出額で7.8%、タイの輸出額で1.52%が縮小すると試算しています。

タイ経済は、物価は安定しており、失業率は低く、経常収支も黒字基調で、財政規律も概ね維持されており、経済構造では相対的に健全です。ただ、かつて高い成長を遂げ、「東アジアの奇跡」として注目されたタイ経済の姿はなく、近年はアジアの近隣諸国よりも低成長に喘いでいます。

タイ経済の中長期的な課題は、個人消費と輸出の伸び悩みでしょう。家計債務残高の高さは、個人消費低迷の要因ですが、ここに直接テコ入れする政策は効果があると推測されます。輸出は、基幹産業である自動車産業の需要が、トランプ2.0の環境下で、化石エネルギーが再び注目され、クリーンエネルギー重視でない動きも出ると予想される中、どう展開するか要注意です。

タイは世界有数の日系企業の集積地で、インフラ整備などの面で良好な投資環境を維持してきました。しかし、労働者の質やコストといった面では、ベトナムの評価が上がるなど、東南アジア域内での優位性は低下しています。また、人口ボーナス時期が終わり、人手不足に陥り始めており、労働集約型産業では周辺諸国に対抗できなくなってきています。今後、タイ経済は如何に投資を呼び込み、産業を高度化するかが鍵となるでしょう。政権に返り咲いたタクシン派と保守派による連立政権が安定した運営ができるかも焦点です。2025年はタイ経済にとってもターニングポイントの年になるでしょう。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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