6月30日、中国政府は香港国家安全法案を成立させ、即日施行しました。翌日7月1日は、23回目の香港返還記念日でしたが、この前日に法案を成立させて、中国政府の新たな香港統治に対する強い意思を示す意味を込めたと思われます。
国家安全法は、香港基本法18条にある通り、香港政府が制定するべきものでした。しかし、2003年に香港政府が同法案を香港立法会に諮ったときには、50万人の市民が抗議デモに参加し、同案を廃案に追い込みました。それ以来、同法案を成立させる義務は放置されてきたと言えます。今回は、香港基本法の例外規定(23条)を使って、全人代で法律を制定し、香港に飲ませるという形になりました。これは、香港で適用する法律は香港立法会に立法権を委ねるという、一国二制度の根幹を変えるものです。
国家安全法は、国家分裂罪、国家政権転覆罪などを規定しています。中国・香港両政府は、その適用範囲はごく限られた狭い範囲と説明して香港市民の不安を宥めていますが、実際にどうなるかは不明です。最終的な解釈権は、全人代(中国政府)にあるので、拡大解釈の恐れは拭えません。他にも、外国による介入や複雑な案件は中国当局に起訴する権限があるとの規定や、国家機密に関連する案件は非公開で裁判が行われるとの規定も中国政府の関与を強めるものです。また、報道機関と外国の非政府組織(NGO)の「管理」強化も含まれていて、言論や批判の自由はどうなるのか、不透明です。
例年7月1日に行われていた大規模なデモ行進は、新型コロナウイルス対策と治安への懸念を理由に警察が許可しませんでした。しかし、厳戒体制下の香港島中心部では、千人規模で人々が集まり、政府に対する抗議の声を上げました。やがて、デモ隊と警官隊との間で小競り合いが起こり、警察側の「国家安全法に基づき逮捕する」との警告も虚しく、約300人ほどが逮捕されました。また、「香港独立」と書かれた旗を所持していたことが、国家安全法の規定する「国家分裂」罪に当たるとの判断で、10人が逮捕(うち9人は即日釈放)されました。香港市民には、政府がいきなりガツンとやってきた印象を与えたでしょう。
トランプ政権の対応は、突っ込んだ厳しい姿勢とは言えません。VISAの発給停止措置は発表しましたが、全体としては穏当なものとの印象です。ポンペオ国務長官が6月17日に中国の外交トップの楊政治局員とハワイで会談しましたが、米中間の第一段階の通商合意を守り、責務を果たすことを約束しており、米国の国益にとっては香港問題で事を荒立てるより、通商合意の履行で実利を取ったほうが得策なのでしょう。
中国にとっては、香港のもつ国際金融機能が非常に重要です。自分の手元には、香港以外に国際金融の機能を持つ都市はないからです。香港は一段と中国色を濃くしながらも、金融の街としては発展していくことになるでしょう。香港財界は、利用できるものと手を組む姿勢を明確にする中国政府に対し、国家安全法の賛成に回り、経済的利益を優先していくことでしょう。