近ごろ世間でFemale Technologyの略称である“フェムテック"というコトバが流行っています。だけど私にはこのコトバ、どこか遠い昔に聞いた記憶がありました。二十歳そこらの頃、誘われて学生日本酒研究会というサークルに入った時がありました。東大早慶上智とか、メンバーもいいし、バックにはメーカーの全国団体がついて利酒コンテストや酒蔵見学もできる。バブル前のいい時代でした。その全国組織の事務局を担当していたのが飯田橋にあったフェムテックという会社だったのです。東大お茶大出身などのリケジョたちが集まってつくった会社でした。
気が遠くなるほどの永い間、理工科系の研究も製造も男性オンリーのフィールドでした。女性は、女工哀史に代表されるように末端の単純作業や現場の手伝い飯炊き女でしかなかったのです。それに彼女たちは挑んだのです。若い彼女たちの気宇は大きかった―「女性が構想しつくりあげる科学技術」を先駆けしたかったのです。それでこそ、当時の世界になかった会社名を名乗る自負と誇りだったと思われます。風通しのいいオフィスでした。現役の学生がたくさん出入りし、夜となっては近くの居酒屋で談論風発。東大運動会(他校の体育会)や慶應広告研の連中が、日本酒研事務局の設置も頼んだようです。
けれど創業40年、企業が大きく発展することは難しかったようです。一般に理知的な女性は意外とモテるもので、一緒に始めた仲間たちが次々に男性に求愛されて辞めていったとか。飯田橋FemTechも少し時期が早すぎたのでしょうか。いや、それは世界第120位の女性進出後進国たるニッポンのオトコたち、そしてオンナたちの責任なのです。
フェムテックを、生理の布ナプキン・吸水パンツ・膣トレあるいは市民権を得たオトナのオモチャに矮小化していいものでしょうか? フェムケアまで拡大解釈していいとしても、無痛分娩やピルの普及も含め、女性の本来の悩みにきちんとアプローチしているとは思えないのです。
女性のための技術が要らないとは言っていません。女性によるすべての人のための技術が必要とされているのです。