パリで日本野菜を3つ星レストランに供給する山下農園のオーナー、山下朝史さんとの共著『パリで生まれた奇跡の日本野菜̶「山下農道」の神髄』を発刊します。山下さんは、創業から25年で名だたるグランシェフを唸らせる野菜、奇跡の蕪、宝石のようなプチトマトetc.を生み出し、その価格は市場価格の10倍。それでも手に入れるのが困難な人気です。
山下さんの野菜栽培についての話は、当たり前すぎて理解が難しい。農業にも道があるという「農道」について尋ねると、「わが子を育てるのと同じ」と答えられます。これでは素人には手がかりとなりません。そこで私は美意識あるいは美学的なアプローチを突破口にしようと思いました。美容一般は私の専門領域であり、抗老化医学の仕事にも携わっています。フランス人の生涯現役のライフスタイルは、こと恋愛や性愛における美学に際立ちます。それなら食材の栽培や料理であっても変わることはないはずです。でも、なぜか今回は敷居が高かったのです。
実は私、恥ずかしながら大の生野菜嫌い。植物への好みが薄い私にとって、農道の美学あるいは野菜の美しさに植物の魅力は難しいものでした。しかし、取り組んでいくうちに、センスオブワンダーが花開き始め、腸内細菌など最近のヒューマニエンス流行は、地下の植物界と人間の個体とのリンクを容易にしました。
好奇心旺盛な私は、各地の植物園を訪れて職員や学芸員の方の話を聞き、植物学や農学の書籍を読んで、大学農学部キャンパスにも足を延ばしました。農業創生で有名な長野県川上村の藤原忠彦さんや、群馬県川場村の永井彰一さんにも、ご高説を伺いました。最後は部屋の中が牧野富太郎さんの若かりし日のように、山積する各種植物や農学参考資料で獺祭書屋と化しました。
結果、大の医者嫌いの山下さんと、大の野菜嫌いの私の異色のマリアージュが生まれました。山下さんパートは優雅で詩的、流れるような文章。私のパートは科学的というか分析的というか、そんな感じで書いています。このユニークな組み合わせを楽しんでいただければ幸いです。