コラム お金の知識を高めるコラム Vol.95 量子コンピューティングの進歩への期待

お金の知識を高めるコラム

Vol.95 量子コンピューティングの進歩への期待

6月11日、人工知能(AI)向け半導体大手エヌビディアのフアンCEOが、パリで開催されたテック業界で最大級の会議「ビバテック」に登壇し講演しました。フアン氏は、量子コンピューティングが数年以内に、強靭で高性能かつレジリエントなシステムとして離陸する段階が迫っていると述べました。

量子コンピューティングは、半導体ベースのそれよりも、高速で大量のデータを処理する能力を備えており、AIの発展のためには不可欠といえます。しかし技術的に困難で未解決な問題やコスト負担が大きいため、実用段階に至るにはまだ時間が掛かるとされてきました。フアン氏自身も、今年1月の時点では、実用化は数十年先になるとの予想に言及し、慎重な態度を取っていました。しかし、今回の講演内容では、量子コンピューティング実現の見通しが大きく変化したことになります。

金融市場にとっても、AIはホットなテーマです。「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる巨大テクノロジー企業の株価は、アメリカのみならず世界の株式市場にも大きな影響を及ぼしています。S&P500に占めるこれら7社の時価総額は、全体の3割以上を占めます。これらの企業は、規模のみならず技術力で他を圧倒しています。一方で、その成長を持続できるかどうかは、今後の株価を読むうえでとても重要になります。

現在、米国・欧州・中国・インドなどは、競ってAIファクトリー拠点の建設を急いでいます。量子コンピューティングの進歩が予想より早く進めば、これら多くのAIファクトリー拠点のAI計算能力は、大きく拡大することとなります。そうすると、AIに関する人材不足や情報処理半導体(GPU)不足などの、ボトルネックは解消され、これらの企業の収益力は上昇し、株価には追い風となるでしょう。

実際、今回の講演でのフアン氏の発言を受けて、米国株式市場では、量子コンピューティング関連銘柄が買われ、大幅に株価は上昇しました。まだ、全容ははっきりしていませんが、AIや量子コンピューターの進歩は、世界を変化させるパワーを秘めていると言えそうです。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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