コラム お金の知識を高めるコラム Vol.86 株式相場や債券相場の急変に備えるには?

お金の知識を高めるコラム

Vol.86 株式相場や債券相場の急変に備えるには?

2024年8月2日に発表された米国の7月雇用統計は、事前予想を大幅に下回る内容で、米国経済が急減速している可能性を示す内容でした。

そのため、金融市場は景気失速への懸念に大きく反応し、株価は急落、債券価格は乱高下、為替ではドル安に動きました。それまでは堅調な景気見通しが企業業績の拡大を継続させ、FRBもハト派の金融政策スタンスを採り、株価は上昇を続けるものとの『ゴルディロックス・シナリオ』が相場を支えてきました。しかし、米FRBが行ってきた金融引き締めは行き過ぎており、金利を下げる姿勢に転じたとしても、経済の失速は免れないとの悲観論が一気に拡大したのです。

平常時には、価格形成が安定し、流動性も高い株式や債券での資産運用は、長期的にはプラスの結果をもたらします。しかし、株や債券は景気の急変や金融政策の変更、突発的な出来事がトリガーとなって、大きな価格変動を起こすことがあり、短期間では悪い結果になることも残念ながら起こります。株式や債券への投資は、それらを買い持ちにする「ロングオンリー戦略」だからです。株式や債券の価格が下落してしまえば、それらへの投資のパフォーマンスは悪化してしまいます。長期で見ると、2009年以降の世界的な金融緩和期の株価上昇に目が行きがちですが、S&P500指数でみれば2000年のITバブルショック、2008年のリーマンショック後では下落をしています。8年以上かけて株価が下落している局面も過去にはありました。従って、S&P500とオルカンさえ買っておけば大丈夫というのは、楽観的過ぎるシナリオです。

当面は、グローバルにインフレ圧力が相応にあり続けるでしょう。そうなると比較的高い金利水準で、金融引締めは続くことが予想されます。この場合、AIなどのテーマ性のある投資熱は肯定されるものの、高金利・金融引き締めの中でも更に株価の上昇が続くかについては、楽観的にはなれません。世界的にインフレの時代に入るとすれば、2010年以降、長く続いた金融緩和時期の相場とは、様変わりする可能性が高いことには注意が必要でしょう。そのためには、株や債券の動きだけに左右されない資産クラスへの投資が鍵になると筆者は見ています。既に、世界の先行する投資家はそうしたシフトを始めています。次回のコラムではそれを解説します。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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