コラム お金の知識を高めるコラム Vol. 106 円安への警告とモラルハザード

お金の知識を高めるコラム

Vol. 106 円安への警告とモラルハザード

4月30日、片山財務相が投機的な動きに「最後通告」を突きつけてから数時間後、ドル円相場は1ドル=160円後半から155円半ばへと一時5円超の急落を記録しました。背景には、日本政府・日銀による円買い介入が実施されたためでした。介入規模は5兆円前後と推計されています。政府・日銀は5月1日から7日のゴールデンウイーク期間中にも円買い介入を行ったことが「日「銀当座預金」の公表残高から判明しています。

ドル円は、1ドル=155円まで下げた局面もありましたが、

その後はドルが買い戻され1ドル=157円台を回復しました。為替市場では、円買い介入の効果を懐疑的に見ています。介入という人為的な操作で、ドル高の流れが変わったかどうかを見極めるのは難しいとの見方が大勢を占めています。歴史的にも、金融政策の大きな転換や利上げ、協調介入などを伴わない限り、介入の効果は一時的で薄れやすいことを市場は理解しています。

日本の通貨当局は、2024年にもゴールデンウィーク中に為替介入を実施し、2022年と2024年はいずれも連日の介入を行いました。

円安とは、日本経済に対する市場からの警告です。輸入資源価格の上昇、実質所得の低下、国際価格とのギャップ拡大などを通じて、日本経済や日本企業・家計に構造変革を突き付けるものです。調達・投資・賃金価格設定家計の支出配分などの本質が持続可能な形へと変わっていかなければ、介入の効果は一時的なものに終わるでしょう。

ところが政府・日銀が介入し、円安の痛みを和らげてしまうと、人々は変化を「適応すべき現実」ではなく「いずれ政府が抑えてくれる一時的なノイズ」と受け止めてしまうことも懸念されます。環境の変化への適応は先送りされ、構造転換の圧力は弱まります。エネルギー価格の上昇に対して補助金を給付して痛みを薄めると、消費の節約や消費動向の転換が遅れ、脆弱性が固定化されるのと同じことです。

介入は、短期的に行き過ぎた動きから通貨を防衛する政策ではありますが、「市場から学ぶ」機会を失わせる政策でもあります。まさに、諸刃の剣なのです。円安がもたらす不利益を軽減するほど、円安が突きつける構造問題を直視する動機が薄れます。危機に適応して強くなる必要を円安は迫っていると受け止めるべきでしょう。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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