クメール王朝時代、手を反り返させヒップを強調しゆるゆると踊る官能的なアプサラダンスは9世紀以降に確立されたとされ宮廷御用達でした。腰を低く落とし大地を踏みしめるスローなムーヴメント。指先から手、そして腕にかけての動きは芽、葉、花、実を形取ることで生命の一生を表現するといわれます。手先は色っぽくくねくね動き、神の使いである“蛇"の動きといわれる所以です。アバターといわれる天女は天上界(神)と人間界をつなぐ美の化身で、アプサラダンスは神に捧げる特別な奉納の舞であり、一般庶民が気軽に鑑賞できるものではなかったそうです。
いにしえのクメールの踊り子たちは全員未婚の女性でなくてはいけませんでした。アンコールワットの壁画に描かれるアバターのように皆トップレスで、頭上や首や腕、足に煌びやかな黄金の飾りをつけ、ひらひらと腰巻をたなびかせ、唯一、ただ1人の神のために舞ったそうです。その時代の神とは何ぞや?
それこそが王。時の王は独自の舞踊団を所有していました。好きな時に宮廷広間で踊らせたといわれ、王に気にいられた踊り子は、夜の褥を共にしたに違いありません。寵愛を受けた踊り子は嫉妬の対象にもなったことでしょう。なるほど。日本ならば古くは衣通姫、そして白拍子の静御前、西洋問わずどこの世界いつの時代も似たような物語は残っております。こう考えると、現代においても“誘ってる?"と疑うほどに、目線、手や傾げる首の動きがそこはかとなく妖艶で艶っぽい訳がわかります。
“Look at me! Only me!"この美しい舞の陰に秘められた媚態により艶やかさが増すことは容易に想像できます。同性間で競わされる哀しさ、期間限定の美の儚さ、何より商品としての価値を問われ続ける女性達のやるせなさ。その悲劇性ゆえ、だからこそ“美しい"というのなら、なんという残酷な運命でしょう。そんな事をつらつら考えてましたが、実はこの天女の舞には別の謎が秘められていることに気がついちゃいましたの。続きは真相編で。