コラム お金の知識を高めるコラム Vol.97 米国雇用市場は堅調から一展、急変か

お金の知識を高めるコラム

Vol.97 米国雇用市場は堅調から一展、急変か

米国労働省が8月1日に発表した7月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比7.3万人増にとどまったうえ、前月6月の雇用者数は速報値14.7万人増から1.4万人増に下方修正、5月も11万人分の雇用者数が修正されました。

過去3カ月では平均3.5万人の増加にとどまり、パンデミック後では最少の伸びです。27週間以上職に就けない長期失業者数も183万人と、2021年末以来の最多となりました。

雇用者数の伸びが下方修正された業種は、製造業と専門職、ビジネスサービスなどに加えて、政府職員や地方の公的教育機関が目立ちました。トランプ政権下で、政府支出の削減が推進され、雇用市場に波及し始めているようです。人員削減は大学や非営利団体など、連邦政府の助成金に依存する機関にも広がり、長期的には、失業率を押し上げると予想されます。

失業率は4.2%と前月の4.1%からは僅かな上昇にとどまりました。企業はレイオフに慎重なようですが、労働参加率が62.2%と低下していることで、失業率が低目に抑えられている可能性があります。トランプ政権は移民排除・不法就労取締まりを強化していますが、これが外国生まれの労働者を雇用市場から締め出しているからです。

今回の雇用統計が示唆した最大のポイントは、労働力に対する需要が供給の減少を上回るペースで収縮していることでしょう。雇用市場では、雇用者の伸びが減速し、失業率が上昇し始め、失業者は再就職の困難に直面し、賃金の伸びも滞るようになる可能性があります。消費者と企業は、既に保守的に支出を減らす傾向も見え始めており、これがさらに進行すれば、経済に悪影響を与えるでしょう。

パウエルFRB議長はこれまで、雇用市場を『堅調』だと表現してきました。金融市場もそれを聞いて安心し、米国経済は底堅く成長を維持するとの自信に満ちていました。しかし、今回の雇用統計でその自信は揺らぎました。今後、雇用市場の変調とトランプ政権による関税適用は、より深刻な懸念につながるでしょう。場合によっては、投資家心理を不安にするかもしれません。引き続き、株式投資には慎重であるべきと考えています。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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