ロシアがウクライナに侵攻した代償は、様々ありますが、ロシアが一番困ったことは、エネルギーを輸出する際に、米ドルやユーロを決済に使用させてもらえなくなったということでしょう。欧米は対ロシア経済制裁を実施して、ロシア産原油の決済に米ドルやユーロを使えないようにしました。エネルギー大国であるロシアには輸出する資源は大量にあります。そして、買いたいという需要のある国も多くいるのですが、代金を決済できなければ、取引は成立しないのです。
国際銀行間通信協会(スイフト)の2022年1月のデータによると、銀行間の国際決済における、米ドルのシェアは39.92%で首位、2位はユーロで36.56%を占めています。ロシア産の原油を輸入しようにも、決済で使える通貨は流動性の低い馴染みのない通貨でとなると、輸入する国が尻込みしてしまうことも多いのです。つまり、欧米は、決済手段をおさえることで、世界貿易ひいては世界経済の主導権を握っている形になっているのです。
そんな中、習近平・中国国家主席は、サウジアラビアを訪問し、中国・湾岸協力会議(GCC)首脳会議に参加しました。主要なテーマのひとつは、石油やガス貿易で人民元建て決済を推進することでした。人民元の国際通貨としての地位を押上げ、世界貿易における米ドルやユーロの支配的地位に揺さぶりをかけることが目的です。しかし、人民元の決済シェアは3.2%に過ぎません。中国はかなり強力に人民元の国際化を進めようとしてきましたが、まだドルやユーロには遠く及びません。
サウジ側も、中国のこの思惑に乗る形で、中国とアラブ諸国とのパートナーシップ強化を模索する姿勢を示しました。アラブ諸国にとっても、支配的な力を持つ欧米への反発があるのです。彼らに黙って従うという姿勢ではなくなってきています。一方の米国は、中東地域で中国が影響力を拡大することに神経をとがらせています。米国は、アラブ諸国に中国と距離を取り、ロシアとも関係を断つよう圧力を掛けてきました。しかし、前回のバイデン大統領のサウジ訪問は、人権問題を取り上げたこともあり、サウジの姿勢を変えられず、芳しい成果は挙げられませんでした。
エネルギーを巡る争いは、このように通貨の争いも絡んで、事態は複雑化しています。今後、欧米とその力に反発する第3国の国々との争いは激しくなるでしょう。