コラム お金の知識を高めるコラム Vol.91 米インフレ圧力根強く

お金の知識を高めるコラム

Vol.91 米インフレ圧力根強く

2025年トランプ大統領は低金利を志向も、 インフレ圧力は緩和せず、 米ドル金利は 高い水準を維持する見通し。 2025年1月の米国物価統計はいずれも事前予想を上回り、 米国での物価上昇圧力の根強さを示唆するものでした。

米FRBは昨年、3回のFOMC会合で立て続けに利下げを実 施しましたが、今年1月のFOMC 会合では政策金利を据え置き ました。 これはインフレ率がFRBの目標である2%を上回った 状態が続く中で、 追加利下げの決断を先送りせざるを得なかっ たことが背景にあります。 パウエルFRB議長は、 半期に一度の 議会証言で、政策金利の引き下げを急ぐ必要はないとの見解を示しています。

FRBの見立てでは、 来年2026年に入るころにはインフレ率が2%前後に落ち着く としていて、それまでは金利水準が米国経済を刺激も抑制もしない 「中立水準」 とさ れる 3.0~3.5% 近辺になると予測しています。 これは現在の政策金利の水準である 4.25-4.5%から約1%低い水準です。 このシナリオが実現するには、インフレ圧力 が緩和することを確認できることが必要になるというのが、大多数の金融市場参加者 の受け止め方です。 そのため、 物価統計でコア物価指数が目標である2%から大きく上 方に乖離している状態では、 追加利下げは遠ざかり、 今年末までに1%もの金利低下 が実現することは難しいとの見方が増えています。

加えて、第二次トランプ政権の関税や移民政策は、インフレや雇用市場、 経済成長 に大きな影響を及ぼし得ることが懸念されています。 雇用統計では、 雇用市場が堅調 であることを示しており、 厳しい移民政策は労働力不足から、 賃金上昇 物価上昇に つながることも懸念されます。 関税を対外交渉のカードとしてちらつかせるトランプ政 権の姿勢は、期待インフレ率を上昇させています。 また、 減税の継続などを掲げてい るため、財政赤字が拡大することへの懸念から、 長期金利へのリスクプレミアムは大き くなりがちです。 このため、 トランプ当選後の3か月の間に、 10年米国債利回りは 3.75% 水準から4.50%を超える水準まで上昇してしまいました。

FRBはトランプ2.0の経済政策の全体像やその影響を見極めざるを得ず、 政策の進 展待ちの姿勢を取ると思われます。 トランプ大統領は、 低金利を志向すると述べていま すが、 彼の政策ゆえに、 今年も金利低下期待はあるものの、それがなかなか実現しな い歯がゆい状況が続くと予想されます。 そうなると、 為替市場での米ドル安も実現しそ うになく、むしろ高いまま推移するのではないでしょうか。 過度の円高期待は期待外れ に終わりそうです。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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