世界中から注目を集めていた米国大統領選挙は、ドナルド・トランプ候補が、予想外の大差で勝利した。明快で、わかりやすい政策を訴え、経済的なメリットを訴求したトランプ候補に対して、人権や移民問題など複雑な事情を抱える政策や、理念的にすぎる主張の多いハリス候補が、激戦州で全て競り負けた。2つの「ガラスの天井」にも阻まれた部分もあったかもしれないが、改めて選挙の難しさと恐ろしさを印象付けた。
政治的な評価はさておき、経済的には、トランプ返り咲きによる「不透明」なシナリオをどう消化していくかが大きなポイントになる。2025年も「インフレ」が、金融市場にとっての重要なキーワードであり続けるだろう。
金融市場では、トランプ氏勝利が伝わると、米国債が長期債を中心に売りこまれた。10年米国債と30年米国債の利回りは急上昇した。トランプ氏が選挙で掲げた公約の柱は、減税と大幅な関税引き上げだった。減税は景気を刺激する効果をもたらす。減税実施となれば、想定より堅調に推移している米国経済が一段と成長加速する可能性が高まる。また、関税引き上げは、輸入品のコストを上昇させることから、落ち着いてきたインフレ圧力が再燃されるとの懸念が広がる。
トランプ氏が公約通りにこうした財政政策を実行した場合には、大規模な歳出削減で相殺しない限り、財政赤字は急拡大することになる。つまり、米国債は大幅に増発される懸念が強まり、財政赤字プレミアムは拡大するとの読みが拡大する。
こうして、10年米国債利回りは大統領選挙後4.38%まで水準を切り上げた。利回りは今後も上昇を続け、2023年終盤に付けた5.00%に達するとの予想さえでている。
11月の連邦公開市場委員会(FOMC)は、今年9月の0.50%幅の利下げ実施に続いて、0.25%の利下げを実施した。背景には、雇用市場の堅調さに陰りが出てきたことが主因である。しかし、トランプ再選による上述の政策実施リスクは、市場の先行きを読みにくくする。米FRBの政策担当者は、第2次トランプ政権が打ち出す減税や輸入関税が経済に及ぼす影響について、いち早く検討を開始し、インフレ抑制のために金利をより高くする必要があるとの結論に至ったという。
パウエルFRB議長は、第2次トランプ政権発足以降、自身の任期が終わる26年5月まで1年4カ月にわたり、金融政策のかじ取りをしなければならない。インフレを抑えながら、どのようなペースでどれだけ利下げするかの判断を迫られているFRBは、トランプ大統領の経済政策と板挟みにあいながら、政策の不確実性にも苦慮しつつ、金融政策を舵取りする重い十字架を迫られることになる。
金利の水準とインフレ圧力からは目を離さぬよう心がけていきたいものである。