コラム Dr.MANAのセンシュアルエイジング Vol.89 「医療ガラパゴス・日本」ーバンコクで出会った“ふつうの未来医療”

Dr.MANAのセンシュアルエイジング

バンコクの病院見学でまず驚いたのは、ロボット手術(ダ・ヴィンチ)の当たり前さ。もう2年前の話です。BDMS(バンコク・ドゥシット・メディカル・サービス)やバムルンラードのような有名病院だけでなく、中規模の私立病院でも、婦人科や消化器系の手術にロボット支援が導入されています。しかも、AIと連携した手術室、術中モニタリングのリアルタイム可視化まで含めて、“未来感"が当たり前のように運用されているのです。

「え? ここってタイ? それとも10年後の日本?」本気でそんな言葉がこぼれました。

さらに衝撃だったのは「2台同時稼働はもう古い」と語る現地スタッフの一言。実際、da Vinci XiやXといった新機種への更新も進んでおり、研修体制や術者交代も想定されたプロトコルが整っている。若手医師が現場で“育てられる"仕組みが、すでに動いているのです。

一方、日本では2025年現在、ようやく2台目の導入がニュースになる病院もあります。

全国のda Vinci台数は570台超と世界有数ですが、その多くが泌尿器科に偏在。消化器・呼吸器・小児などの領域では、まだこれから。教育体制も、施設ごとの自主性に任されており、システムとしての統一感は薄いのが現状です。「日本の医療は進んでいる」と、私たちは無意識に信じてきました。でも実際は、電子カルテの連携も不十分、医療DXも立ち遅れ、慎重さが変化の足かせになっている部分も否めません。

バンコクで感じたのは、制度が整っていなくても“現場が動けば医療も進化する"という事実です。新しい技術を“使いこなす文化"があり、そこに“変化を求める空気"がある。だからこそ、変化が起きる。

もちろん、日本の医療には丁寧さや安全性、信頼という強みがあります。でもその慎重さが、結果として救命の遅延になってしまったら?私たちに必要なのは、技術を持つことだけではありません。「問いかける力」や「未来を想像する目」なのだと思います。「これ、日本でもできるんじゃない?」そんな一言が、未来を動かす力になると、私は信じています。

ここバンコクの医療は、きっと“未来のリハーサル"なのです。そしてそのリハーサルに、私たちはもう参加していい時代に入っているのかもしれません。

Dr. MANA(岩本 麻奈)

一般社団法人・日本コスメティック協会名誉理事長/ナチュラルハーモニークリニック顧問医師/エッセイスト/コスメプロデューサー/美容ジャーナリスト 
皮膚科専門医。20年に渡るフランス滞在ののち、東洋のパリ“プノンペン”に転居。女性を元気に美しくする講演活動を続けている。「パリのマダムに生涯恋愛現役の秘訣を学ぶ」「生涯男性現役」(ディスカヴァー トゥエンティワン)「フランスの教育・子育てから学ぶ 、人生に消しゴムを使わない生き方」(日本経済新聞出版社)など、美容やライフスタイルに関する著作多数。近著は「結婚という呪いから逃げられる生き方」(ワニブックス)

公式HP: dr-mana.com   公式ブログ: ameblo.jp/dr-mana

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