コリアンダーとパクチーは同じもの。コリアンダーは英語、パクチーはタイ語由来となります。NHKの調べでは、二つのうち「どっちを使ったらいいのか」と悩んでいる人が多かったようです。でもどうやら、勝負はついて、第2位コリアンダー(72%)、第1位はパクチー(80%)でした(タイ在住の皆さんおめでとう!)。
話は転じまして、マルセル・プルーストが著した『失われた時を求めて』という小説があります。ギネスが「最も長い小説」に認定したその長さは、日本語訳の場合400字詰原稿用紙で1万枚。彼の一生はこれ一本に尽きました。
小説の冒頭、紅茶に混じったプチ・マドレーヌの香を味わった瞬間、彼は幼い頃の記憶が鮮やかに甦って衝撃を受けます。彼は無自覚的に突然湧きあがってくる記憶を「無意志的記憶」と呼びました。この現象は文学作品に表されたことで「プルースト現象(効果)」と呼ばれることになり、それまでの小説が高みの見物物語劇に終始していた状況から、主人公の内面と社会との葛藤といった近代を引き寄せ、20世紀小説の幕を開いたのでした。
そこでまた話一転。家の近くにある創作和食屋『創和堂』さん。イカ墨で食べるイカシュウマイやハムカツだけでなく、レギュラーメニューも舌が蕩けます。創作と銘打ってらっしゃいますので、毎月半分くらいのメニューが旬に合わせて変わります。先月行った際、鮎の春巻が料理長のおススメでしたので、早速注文しました。
カプッ! 途端に「wow!」。カンボジアで過ごした、あの乳と蜜の流れる国の甘い思い出が、どっとばかりに口中を横着に占領してのさばるのです。嬉しさに思わず歓声。生命力あふれる熱帯の味の懐しさ、涙あふれる思い。これぞプルースト効果!
「淡白な鮎の風味とパクチーは相性がいいんです」と料理長。思わぬところで出会ったパクチーの癖のある香りは、懐かしいプノンペンの街なかに心も身体も飛ばしてくれました。タイ料理屋さんでいくらパクチーを食べても、しみじみした懐かしさは感じません。脳がハナから「東南アジア料理を食べる」と認識しているからなのでしょう。
日本の和食屋さんでコリアンダー効果? 思いもかけぬ、まさかこんなところで。組み合わせがきっとミソだったんですね。