コラム お金の知識を高めるコラム Vol.81 1ドル=150円という円安から考えておかなくてはいけないこと(前編)

お金の知識を高めるコラム

Vol.81 1ドル=150円という円安から考えておかなくてはいけないこと(前編)

4月15日、ドル円相場は1ドル=154円台をつけました。34年ぶりの円安を更新したのです。今回の円安は、米FRB(米連邦準備理事会)の利下げが遅れていることが原因で、「いずれ円高になる」という見通しもありますが、金利差だけでドル円相場が動くわけではありません。過去1年ほど、そのような見通しは完全に外れてきました。筆者は従来より、もっと構造的で、本質的な要因に注目すべきとして、円安への警鐘を鳴らしてきました。過去の本コラムをぜひ読み返していただきたいと思います。今回は、最近筆者が注目している「動き」について、2回にわたって取り上げます。

ひとつめの「動き」は、日本の家計資産の動きです。日本銀行が四半期ごとに発表している資金循環統計によると、2023年12月末時点で、家計全体の金融資産は約2,141兆円にのぼります。そのうち円貨性資産は約96%を占め、しかも現預金(除く外貨預金)が約53%となっています。日本の家計部門はまだまだ保守的だと評価できるでしょう。

しかし変化の兆しも見えてきました。外貨性資産の比率も3.7%に達し、過去最高となったのです。外貨性資産の比率は2022年12月末では3.2%だったので、1年間で0.5%上昇したことになります。ちなみに外貨性資産の比率は2000年3月時点では0.9%に過ぎず、過去20年余りで比率は4倍になっています。外貨性資産の存在感が、日本ではまだ小さいことに変わりはありませんが、「貯蓄から投資」への動きは「円から外貨」という形でも浸透してきているようです。そして、新NISAが開始されて以降、投資信託を経由した対外証券投資の勢いは過去に例がないことは報道されているとおりです。そのため、2024年3月末時点の外貨性資産比率は、過去最高を更新する公算が大きいでしょう。円から外貨資産へのシフトが進むという傾向に、新NISAという政策が後押しされることで、外貨資産拡大の流れは加速する可能性が高まります。

筆者は、1ドル=100円の時代から、日本人は資産を外貨へシフトすべきことを推奨してきました。これは、長期トレンドとしては、円安を警戒すべきという相場感もありましたが、円安に動くという確信よりも、投資の鉄則である国際分散理論に従えば、外貨資産へのシフトが理にかなうという根拠でした。ここへ来て、日本の家計に動きが出てきたことはとても理にかなっていると考えています。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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