コラム お金の知識を高めるコラム Vol.102 トランプ流の「力による現状変更」

お金の知識を高めるコラム

Vol.102 トランプ流の「力による現状変更」

新年を迎えたばかりの1月3日、米軍はベネズエラに対し空爆を実施し、首都カラカスの軍事エリアおよび民間地域の一部を攻撃して、マドゥロ大統領夫妻を拘束したことを発表しました。

トランプ政権は、第1次政権でもマドゥロ大統領への圧力をかけてきましたが、第2次政権では一段と圧力を強化してマドゥロ政権に方針転換を迫ってきました。直近ではベネズエラ周辺海域で軍事力を展開し、制裁対象となった石油タンカーを拿捕していました。そして、ベネズエラの最大の支援国である中国の企業がベネズエラの石油関連企業と取引していることに対しても制裁を科しました。軍事力の行使と現職大統領の拘束・米国への移送は、前例のない介入と言えるでしょう。今回の事態に対し、ロシア・中国コロンビアなどはトランプ政権を非難し、国連安全保障理事会の開催を求めました。今回の事案は国際法違反であり、『力による現状変更」を認めない国際社会のルールにも反するとの批判が出ています。

マドゥロ大統領を拘束し、米国で訴追することには成功した米国ですが、緊急避難的に当面、ベネズエラを運営した後の「出口戦略』を考えると事態は複雑です。ルビオ米国務長官は、マドゥロ政権のNo.2で副大統領だったロドリゲス氏と接触を続け、民主政権への権限移譲について協力を期待していることを明らかにしました。しかし、トランプ政権は、マドゥロ政権が民主的な選挙で国民の支持を得ていないことを批判してきており、その政権の中枢にいたロドリゲス氏が、一時的にしろ権力を掌握することは矛盾があると言わざるを得ません。加えて、ロドリゲス氏はベネズエラが二度と他国の植民地にはならないと宣言し、マドゥ□大統領の即時送還を要求しました。事態の収束は見通せない状況にあります。

また、ベネズエラにはマドゥロ政権に対抗してきた野党勢力もいます。ノーベル平和賞受賞者で野党指導者であるマチャド氏は、2024年の選挙で多数を獲得し、勝利を主張してきた野党候補ゴンサレス氏が「直ちに」権力を掌握するべきだとしています。ゴンサレス氏は、公式集計とは別に行われた集計で勝者と見なされ、現在はスペインに亡命しています。マドゥロ大統領の拘束をきっかけに、ベネズエラと国民にとっては民主化勢力をどのように使っていくかが課題となるでしょう。

更に、ベネズエラの国情が不安定化すると、隣国コロンビアや同じく社会主義で中国の支援を受けるキューバなどにも政治的な圧力がかかると思われます。そして、トランプ大統領はイランの政情不安定にも大いに関心を寄せています。

投資で重視される「地政学的リスク」、中南米にとどまらず、パワーバランスや利権・政治的な構図が変化することもありうるでしょう。

長谷川 建一

国際投資ストラテジスト

シティバンクグループ日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004 年末に、東京三菱銀行(現三菱UFJ 銀行)に移籍し、リテール部門でマーケティング責任者、2009 年からは国際部門に移りアジアでのウエルスマネージメント事業戦略を率い2010 年には香港で同事業を立ち上げた。その後、2015 年香港でNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank を創業。2020 年には、Wells Japan Holdingsに参画し、新たな金融サービスの開発に取り組んでいる。世界の投資商品や投資戦略、アジア事情に精通。わかりやすい解説には定評がある。香港をはじめ、日本やアジア各地での講演も多数。京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)

著書
ブログ: HASEKEN
寄稿中

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