前回は医学界の業界用語について語るつもりでいたのですが、知らぬ間に西洋医学を取り入れた日本の敏速さ、その立地や進取の気性について、紛れ込んでしまいました。今回は業界用語に筆を戻してまとめてみたいと思います。
若かりし医学生のころ、姑息手術という言葉を教室で習いました。「えっ姑息?」。姑息な手段とは“卑怯なやり方"のことですよね。辞書を引くと、「姑息:一時の間に合わせ。その場逃れ」と。善いとも言えないけど、悪い意味もないのです。しかも広辞苑に「姑息②俗に、卑怯なさま」と掲載されたのは、つい最近と言っていい(2018/01/12第七版)からです。
漢和辞典も調べてみました。
「姑」1. しゅうとめ。2. おば。姨(母の姉妹)に対して夫の姉妹。3. しばらく。そのままで。とりあえず。*老女が現状のままを尊び、保守的であることから。4. 手をつけず、そのままにしておく。また、そのさま。*姑息。
意味は4. でいいでしょう。例文として「君子之愛人也以徳、細人之愛人以姑息。=君子の人を愛するや徳を以てし、細人の人を愛するや姑息をもってす」という『礼記』檀弓の一節が掲げられています。訳としては「自らに誇りをもつ人間が人を愛する行為は、その人のためにはどんなことでもしてあげようとの思いの表現であり、つまらない人間が人を愛するのはその場しのぎの見返りを求める軽薄な愛情に過ぎない」といったところでしょうか。
君子には仁があり無償の愛があり、細人には意図された算段しかない。これって三千年前の言葉ですよ、やっぱり姑息は卑怯じゃないですか!
さて姑息手術は対症療法ですが、そもそも多くの西洋医学は根治療法ではありません。かぜ症状の患者さんに、鼻・のど・気管支などの痛みやキツさを緩和するための処置を行うことの複合です。だからこそ、根治療法には魅力があります。その最先端となる療法としてクローズアップされているのが、自己間葉系幹細胞を使った再生医療です。これはまた別の機会にお話しさせてください。