六月、日本は梅雨の季節。山笑ふ春から山滴る夏へ、湿潤な日本の気候は雨の種類と表現において群を抜いています。一方、乾燥した気候の西欧では風への関心が深くなり、英語圏においてはbreezeとwindの違いを作りだしました。
フランス語で美しい響きを持つ、カマルグの湿地帯に吹くミストラル。その実態は風速30メートル超の暴風ながら、吹き荒れるのは日中のみ。夜間はピタリとやんで翌日はカラッと新鮮な陽気に包まれます。南仏に住んでいた昔、スペインとの国境をなす稜線から毎年、冬を告げるピレネーおろしが襲ってきました。3日3晩ビュービューとすさまじい音を轟かせて風が吹きわたり、風がやむとザーッと大粒の雨がまるで大泣きするように降ってくるのです。この風に閉じ込められていると、気がおかしくなると古くからいわれ、地元の人はヴァンドトン、「気違い風」と呼んでました。
日本にあるのは「気違い雨」、晴れたかと思ったらだしぬけに降ってくる雨のことです。五月雨、梅雨のことを "卯の花くたし" とも呼ぶことはご存じの通り。垣根の下に卯の花が落ちて、長雨にうたれ腐ちていくのです。季節感だけでなく、雨は情緒をも演出してくれます。翠雨、慈雨、甘雨、秋雨、春雨、雨の呼び名は数多くありますが、中でも私の好きな言葉は「遣らずの雨」。お客様が「では、そろそろお暇申し上げます」とお帰りになろうとされると、お名残惜しいと降りだす雨。偶然ではなく、天の粋なはからいと感じることで物語が始まることもあるでしょう。日本では雨もセンシュアルなのです。
南の蜜流れる国はスコールの季節です。アフタヌーンティーのころ、鳥たちは鳴き、風吹き過ぎて、いきなり大粒の雨が音を立てて地を叩き、見る間に道路は川となっていきます。やがてまた、ギラギラと照りつく灼熱の太陽。高温多湿の農耕(濃厚)社会に約束された豊作。風土は人々の性格をも形づくりました。滑らかで吸いつくような艶めく肌をも一緒に。