第29回 バンコクでの劇的な再会
私は3度離婚している。そう話すと、「子どもは?」と大抵の人は悪気なく聞くものだ。拙著には書いたが、口頭で自分の子どもについて語った事はあまりない。最初の結婚で儲けた2人の子どもは、1度目の離婚の際に、その親権を父親側に託し、子どもの父親とその家族の元で育つ事になったからだ。その後、私は子どもを持つ選択をしてこなかった。
子どもの親権を取らなかった私には、常に母親失格だの、母性がないだのという、当時の経緯や事情も知らない、他人からの厳しい評価と、好奇な視線が浴びせられた。そこにいちいち反応し、弁解をする気にはなれず、ただ受け入れてきた。一番自分を責めていたのは、自分自身だった。
そのうちに私は、「子どもは?」という問いかけに対し、「いないです」と答えるようになった。だがその事はより一層自分を深く傷つける事になっていった。その後、2人が二十歳を超えたのを機に、「子どもは、親権を託した彼らの父親側で育った」とだけ開示するようになった。「安全な場所に託した」事は正解だった、と自分自身に言い聞かせていたのだと思う。
淡々と抑え続けてきた感情は、蓋をしてしまい込んだ事で、行き場もなく、いつになっても傷は癒えずに奥底で痛み続けていた。子どもの事を話さなかったというより、話した瞬間に、その生々しい哀しみや憤りが噴き出してしまう恐れから話せなかったのだ。
今から4年前に、成長した彼らに一方通行のコンタクトをとってみた。私の連絡先を入れる事はまだ出来なかった。それは、実際に長い年月彼等を必死で育ててくれた方達への配慮でもあった。ただ私の命が終わる前までには、会う機会が持てたら良いという儚い夢は伝えたかったのだ。また、もし子ども達が、自分の母親に会ってみたい、話してみたい、と思った時に、「迷惑なんじゃないか」と躊躇しないように。こちらはいつでも会える機会があれば嬉しい、という思いだけを伝えるために。実際に会えると思っていたわけではない。
それから3年のち、何故か私はふとこちらの連絡先を入れた。それから1年が過ぎた今年2018年の3月に、突然、幼い頃に離れて以来会う事がなかった息子から連絡が入った。
そして彼はバンコクにやってきた。
27歳になっていた息子との対面の日は、朝から時期外れの豪雨となった。私の代わりにバンコクの空が大泣きしてくれたようだった。戸惑いの中で、流れた時間はとても言葉では語り尽くせない。大人になっていた息子の優しさと気遣いと思いやりに包まれたかけがえのない時間となった。
人生とはわからないものだ。あの、これ以上ない、という哀しい日に、これ以上ない嬉しい日の事は想像できなかった。奇跡のような瞬間だった。この再会はこれからの私の人生を変えて行く事になるだろう。
全ての物事は、絶妙なタイミングで、良きようになる。人生とはドラマよりドラマチックに出来ている。5月は私のこれまでと、これからを引き受けてくれた今の夫と結婚式を挙げた月。クリスチャンではないけれど、神の前で誓ったあの日から、5年。新緑の眩しさを思い出した。
Published · Updated
by hiroko 「結婚・離婚アドバイザー」
来タイ4年目! ライター、ラジオDJ、普段着物愛好家。着物をもっと身近なものにをモットーに、バンコクFM放送局J-channel、毎週月曜日Morning Kissには着物やゆかたで出演中。リクエスト、メッセージなど大歓迎です
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2018年05月号
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