第29回　落ちない、落ちまい

コラム元BANGKOK駐妻通信第29回　落ちない、落ちまい

　私はこれまで海外から日本に本帰国するたび、精神的にドーンと落ちるという体験をしてきました。閉塞感に囚われ、やる気がおこらなくなり、上手く動けなくなる。
　周りの人間がみな日本語を話すので、多くの情報が耳に飛び込んでくるのが気になるのか、日本人のまじめ過ぎる性格がシーンによってはプレッシャーになるのか…。
　23歳の時にマチュピチュ遺跡を見てみたい、と一人でペルーに旅し、ペルーという国と公用語であるスペイン語にすっかりはまってしまいました。仕事をしてお金がたまるとバックパッカーの旅に出る。中南米、ヨーロッパ、中近東、東南アジア、あちこち旅をし、中南米の魅力に取りつかれた私はメキシコで就職活動をし、現地採用で働きました。
　独身時代は日本と海外の生活を繰り返し、日本の生活に馴染めないと涙した時もありますが、今の私には小学生の子供がいます。なにがなんでも落ちまい、とタイを出国する前に心の中で強く誓いました。
　2020年8月9日、本帰国のため羽田空港に到着。PCR 検査を受け、2 週間の自主隔離が終わり、晴れて自由の身に！　とはならず（涙）。コロナで会いたい人に会えない、行きたい場所に行けない。このままでは落ちてしまいそうだ…。アロマ入浴剤を数種類買い、毎晩どれにしようかと選ぶ。お出汁を少し高級なものにしてみる。香りのよいハンドクリームをつける。ささやかな楽しみをいくつも見つけて心の均衡を保ちましたが、一番は、あらかじめ予防線を張っておいたことが功を奏したのだと思います。
　春分が過ぎ、寒さがだいぶ和らいできました。暖房をつけなくても過ごせる日が増え、春の訪れにワクワクしています。最近仕事を探し始めました。桜が咲くころにはどうかいい知らせが舞い降りますように。

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