コラム 元BANGKOK駐妻通信 第17回『ドイツのコロナウイルス対策』

元BANGKOK駐妻通信

第17回『ドイツのコロナウイルス対策』

2020年3月23日。この原稿をドイツ南西部の小さな街で書いています。

外気温は摂氏3℃と低いものの、青空に澄んだ空気、先週1週間続いた陽気で色濃くなった丘や森が見えます。この完璧な自然の美しさを見ていると、新型肺炎はどこか遠い国で起きているかのように感じられます。時々空を飛ぶドクターヘリの音以外は。

ドイツで新型肺炎患者が出たのは、2月26日。北イタリアのスキー旅行から帰ってきたドイツ人の方3人が陽性判定を受けました。それから4週間目の今日、ドイツ国内の感染者は2万7181人、死者113人にまで広がっています(2020年3月23日午後2時現在)。

感染が広がり始めた頃、ドイツの人々はとても楽観視していました。「ドイツ当局は、濃厚接触者を洗い出し、検査し、すぐに隔離しているから広がる心配はない」と。人々は普段と変わらず外出し、パーティを催し、スキーを楽しんでいました。 同じ頃、北イタリアでの感染が激増します。イタリアから入ってくるニュースは、見事に空になったスーパーマーケットの映像でした。「感染が増えることはない」と楽観視する一方、感染者が出た最初の土曜日には、ドイツでも買い占め騒動がおきてしまいます。薬局やスーパ-の棚から、トイレットペーパーと消毒薬が消えました。新型肺炎は身近に感じないけれど、生活必需品がなくなるのを恐れている様子は、私にはとてもおかしく見えました。

3月18日の夜、ドイツのメルケル首相はテレビ演説で「第二次世界大戦以来の国民の一致団結が必要な時」として国民に呼びかけました。テレビ演説は、冷静で、国民の不安に寄り添い、一人ひとりに何が求められているのかを分かりやすい言葉で説明したものでした。具体的な政策が首相から語られることはありませんでしたが、首相のこの演説は、多くの国民が行動を反省し、向かう道を見いだせたように感じました。

現在ドイツでのコロナ対策は、

1. レストラン等の営業停止
2. 不要不急の外出の禁止

など他国と同じようなものです。しかし、首相の演説にもあったように、ドイツでは「感染のスピードを遅らせる時間稼ぎの対策」と断言しています。現実問題として、ここまで拡大したウィルスをゼロにすることは今の医療では不可能と思われます。この瞬間も治療に携わっている医療関係者、治療薬やワクチンの開発に従事されている研究者の方々を信じ、一人ひとりが自分の行動を見つめ直し、治療薬ができるまで、重症化しやすい高齢者を守っていきましょうというものです。そんな緩い対策で大丈夫なのだろうかと思う反面、大風呂敷を広げることなく確実に出来ることをこなしていく、ドイツ流の問題解決の方法をここに見た気がします。

「100年に1度のパンデミック」とも形容される今回の危機。1日も早い終息を願わずにはいられません。

長谷川 友美(写真中央)

日本在住中は、兵庫県立大学(旧姫路工業大学)に勤める(環境人間学部講師)。夫の転勤に伴い、2004 年~ 2014 年までバンコク在住。2015 年~ドイツ在住

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