スタンフォード大学の卒業式で、スティーブ・ジョブズが語った有名なスピーチがあります。その中で彼は、自身のキャリアをこう振り返ります。
『学生時代、たまたま選んだカリグラフィーの授業。何につながるのかも分からず、ただ夢中になって学んだ日々。その経験が、のちにMacの美しいフォント設計へとつながっていった』。
これはまさに「プランド・ハップンスタンス(計画された偶発性)」というキャリア理論の体現そのもの。つまり、偶然の出来事をキャリアの転機に変えていく、という考え方です。
海外で暮らす私たちは、数年後どこにいて、どんな暮らしをしているのか、予測がつきにくいことが多い。だから“目標から逆算する"という、従来のキャリア設計がうまくフィットせず、漠然とした不安に飲み込まれそうになることもあるでしょう。
でも、そんなときこそ「プランド・ハップンスタンス」の出番。
“今ここ"にある出会いやチャンスを信じて、軽やかに動いてみる。大切なのは、何につながるか、どう評価されるかではなく、自分の“感情"が動くかどうかが判断軸です。もう“頭"で納得させた行動には、正直お腹いっぱい。所詮それは長続きしないものなのです。
それに「プランド・ハップンスタンス」は、博打的なキャリア戦略ではありません。脳科学の観点からも、すべての行動の源泉は“感情"。損得や正解探しではなく、ワクワクするその“感情"こそが、行動を積み重ねる秘訣なのです。
ワクワクから歩き出したその一点一点が、あとから振り返ったときに、自分だけのキャリアを形づくる“線"になっているのです。そうすることで、一見すると流されているように見える、ライフプランの変更や海外転勤といった環境の変化も、私たちは、“軸を持って"流され、全ての経験を統合してひとつの線(キャリア)にしていけるでしょう。
置かれた場所を嘆くのではなく、今できることに目を向ける。それが、しなやかでたくましい「海外暮らしのキャリア戦略」です。