コラム ヒーロー★インタビュー VOLUME 3 JICAシニア海外ボランティアタイ国家警察大佐 戸島国雄氏 ー似顔絵捜査官編一

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VOLUME 3 JICAシニア海外ボランティアタイ国家警察大佐 戸島国雄氏 ー似顔絵捜査官編一

似顔絵捜査官第1号として活躍。モンタージュより似顔絵?

警視庁で鑑識として数多くの事件を担当していた戸島さんには、実はもう1つの顔がある。似顔絵捜査官だ。"似顔絵"というと、私達はTVのニュースで手配犯として公開された絵や、交番前などの張り紙などで目にするもの。その似顔絵を描く捜査官の草分け的存在が戸島さんなのだ。

今から約43年前、鑑識の写真担当だった戸島さんは、似顔絵を描き始めた。なぜモンタージュ写真ではなく"似顔絵"なのだろうか?

 

「例えば、被害者は犯人の人相について捜査員から繰り返し同じ質問をされます。ならば1枚似顔絵があればいい、と単純に思ったんです。またモンタージュは、写真を作成するのに機械操作があります。被害者や目撃者に警察署まで来てもらい機器の前で協力してもらわなくてはなりません。こんな場合、多くの被害者は緊張してうまく思い出せないこともあります。でも似顔絵なら私が鉛筆と紙を持って現場などへ行き、話を聞きながら描くことができます。一番手っ取り早い方法なんですよ」

 

戸島さんはもともと油絵が趣味だったそう。似顔絵に関しては独学で習得、休日は上野公園へ通って、スケッチする人の手元を見て特徴を掴み、特訓した。1枚の似顔絵は30~40分で描くことができる。HB~8Bの鉛筆や大小50本の筆などを使いこなし、指先のぼかしで様々な表情を作り出す。しかし、それが実際の犯人像に近いものでなくては意味がない。どうやって記憶を引き出し、描いていくのだろうか?

 

「まず、心を開いてもらうことが大切。被害者はショックを受けて混乱していることが多いですから。そして私の心は"無"にすること。先入観があると、私が想像した顔になってしまいます。また近くに人がいると似顔絵もその人に似てくることがあるので、周囲に誰もいないように配慮し、私は必ず横に並んで描くようにします」

ただいま似顔絵捜査官が増加中!

戸島さんは年間約200点もの似顔絵を描いてきた。総数にすると相当な数だ。そのうちの1割ほどは犯人逮捕へつながったという。

 

「これまでの似顔絵で顕著な特徴が出るのは、やはり"目"です。経験から言うと、痴漢はたれ目や潤んだ目、泥棒はキョトンとした目が多かったような気がします。ところが、似顔絵を描くために聞き取りをしている時に、"怒りに燃えた目"とか"うつろな目"とか言われた場合、価値基準が個々に違うので、もっと具体的な表現がほしいところなんです。もっと言うと"ハンサム"とか"九州方面の顔"とか"美人"とか特徴がありそうで確固たる基準がないものも苦心するところです」

 

現在、DNA鑑定など科学捜査が発展する中、似顔絵は写真より特徴が強調されて情報提供につながりやすいと言われている。警視庁は2000年から「似顔絵捜査員制度」を導入し、2008年までに185人が指定された。鑑識課や刑事課だけでなく、様々な部署からの応募があるそうだ。また2年前からは、似顔絵によるデータベースも始め、今後もますます重要性が高まるという。戸島さんに続く"似顔絵捜査官"。これからも増えていきそうだ。

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(取材・文 田島美恵子)

※本記事記載の情報は全てWOM Bangkok本誌掲載当時(2009年)のものです。あらかじめご了承ください。

「プロフィール」

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戸島国雄 とじまくにお 

タイ国家警察 大佐 (科学捜査局 鑑識課)

警視庁で鑑識一筋36年。95年に国際協力機構(JICA)派遣の5代目鑑識専門家としてタイ国家警察へ出向。98年任期を終え帰国。定年退職後、2002年からJICAシニアボランティアとしてタイ警察へ再び派遣。現在、タイでの事件解決・鑑識技術の継承に奔走する。

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