コラム ヒーロー★インタビュー VOLUME 2 タイ国家警察大佐戸島国雄氏―オウム真理教強制捜査編―

ヒーロー★インタビュー

VOLUME 2 タイ国家警察大佐戸島国雄氏―オウム真理教強制捜査編―

警視庁の「鑑識の鬼」オウム真理教の強制捜査で最前線へ

あれから14年たった今でも、当時の様子を鮮明に覚えているという戸島さん。1995年5月16日、山梨県上九一色村(現富士河口湖町)の広大な敷地に広がっていた「オウム真理教(現アーレフ)」の活動拠点であるサティアンへ、地下鉄サリン事件の首謀者として麻原彰晃を逮捕するため、強制捜査が入った。その様子をテレビで見た人も多いだろう。戸島さんは警視庁鑑識課写真係として、早朝から現場の最前線に立っていた。上九一色村への強制捜査の2ヶ月前に、営団地下鉄(現東京メトロ)で12人死亡、5510人の重軽傷者を出す大事件が発生した。強制捜査で踏み込んだ際、毒ガスが散布されるかもしれないという懸念があり、捜査官は自衛隊から貸し出された迷彩柄の化学防護服を着用し、完全武装をして突入することになったが、捜査官の中には不安を抱く者も少なくなかった。

 

戸島さんは鑑識班として、強制捜査の前に、サティアン全景写真をヘリから空中撮影している。同乗した捜査官に静止されながらも乗り出して、施設の位置関係がつかめるよう正確に撮影した。しかし施設内部に関する情報は乏しく、緊張と焦りの連続だったという。地下室でオウム真理教幹部数名を発見した時は、不思議と恐怖感はなく、冷静に逮捕したそうだ。

 

「いろんな事件現場を渡ってきたが、この強制捜査では、もしかして死ぬこともあるかもしれないと少しは感じたりしましたよ。オウム側がどう出てくるか予測できませんでしたからね。でも、現場に立つとそんな気持ちはどこかへ飛んでいきます。とにかく鑑識としてやるべきことをやるだけです」

 

当時の新聞を見ると、強制捜査突入の最前列にカメラを持った戸島さんの姿が映っている。

ヒーロー★インタビュー

ミャンマーにて。この一帯は麻薬の生産地でもある

ヒーロー★インタビュー

戸島さんの部屋に貼られた捜査マップ。あらゆる場所に出向いている事がひと目で分かる

オウム真理教の指名手配犯“タイ国境に潜伏"情報の真偽を追う

10年ほど前から何度か浮上しているオウム真理教事件の指名手配犯“タイ潜伏"情報。この指名手配犯というのは菊池直子、高橋克也、平田信の3名を指す。ある時はタイ北部チェンライ付近に、またある時は国境近くのミャンマー領域にある少数民族の村に。情報が入る度に戸島さんは1つ1つ確認をとる。

 

「タイ─ミャンマー国境付近には武装組織の要塞があり非常に危険な区域です。潜伏情報があったとしても日本から捜査官が来てすぐに踏み込むことは難しい。ここからの領域はタイ警察の協力が必要不可欠なのです」

 

戸島さんは時間があれば、バンコクから出てタイ国境へ足を運ぶ。これまで向かった場所は数知れない。タイ警察の鑑識専門捜査官としての仕事をこなしつつ、これまで担当した未解決事件の後追い捜査を続けている。

(取材・文 田島美恵子)

※本記事記載の情報は全てWOM Bangkok本誌掲載当時(2009年)のものです。あらかじめご了承ください。

「プロフィール」

ヒーロー★インタビュー
ヒーロー★インタビュー

戸島国雄 とじまくにお 

タイ国家警察 大佐 (科学捜査局 鑑識課)

警視庁で鑑識一筋36年。95年に国際協力機構(JICA)派遣の5代目鑑識専門家としてタイ国家警察へ出向。98年任期を終え帰国。定年退職後、2002年からJICAシニアボランティアとしてタイ警察へ再び派遣。現在、タイでの事件解決・鑑識技術の継承に奔走する。

関連記事...

バックナンバー情報..