Vol.Vol. 52-1
伝統刺繍に思いを込めて
by
宝石鑑別士(英国宝石学協会・FGA)夫の仕事の都合により2012年4月よりバングラデシュ駐在。15歳の娘の母。
バングラデシュ
約1年前の4月、住み慣れたスリランカからバングラデシュに移りました。水が悪い、空気が悪い、人口密度が高いなど、あまり良いイメージのないバングラデシュですが住めば都?興味深い発見の日々を楽しんでいます。こちらに赴任して最初に私の目を惹いたのは「ノクシカタ」と呼ばれる伝統的な手刺繍でした。重ね合わせた古い布に動物や植物、農村での生活風景、結婚などの儀式の様子が物語の挿絵のように表現されています。
あまり裁縫が得意でない私ですが、バングラデシュならではの習い事として日本人会が週1回主催するノクシカタ教室に通うことになりました。バングラデシュ人の先生が指導して下さるのですが、ステッチの方法もパターンが多く、また目が細かい作業の為、最初の2時間のレッスンでは1センチ四方の葉を彩るのがやっとでした。
ところで刺繍のモチーフにはそれぞれ意味があります。たとえばバングラデシュ南部に生息されるといわれるベンガルタイガーは「強さと威厳」、象は「家庭に幸せをもたらす神様の使い」、馬は「勇気」、鳥は「幸運な出会い」…それぞれの思いを刺繍に込めるのも楽しいですね。
古くからノクシカタの場はバングラデシュの女性が集まっておしゃべりをしながら日々の生活情報を交換しあう社交の場とされてきました。現在では貧困層の女性の自立支援、生活向上の手段としてNGO(非営利組織)支援のもと、日本をはじめ先進国でも販売されています。
バングラデシュは政情不安で、観光として訪問される方は少ないと思いますが、もしノクシカタを見かける機会があったら、緑豊かな農村で女性たちがおしゃべりしながら、ひと針ひと針心を込めて刺繍している姿を想像してみて下さいね。