コラム ヒーロー★インタビュー VOLUME 4 JICAシニア海外ボランティア タイ国家警察大佐 戸島國雄氏 -タイ警察鑑識編-

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VOLUME 4 JICAシニア海外ボランティア タイ国家警察大佐 戸島國雄氏 -タイ警察鑑識編-

タイ初の犯罪鑑識の教科書を出版 鑑識技術を指導することへの熱意

警視庁で鑑識として数多くの事件を担当していた戸島さんには、実はもう1つの顔がある。似顔絵捜査官だ。"似顔絵"というと、私達はTVのニュースで手配犯として公開された絵や、交番前などの張り紙などで目にするもの。その似顔絵を描く捜査官の草分け的存在が戸島さんなのだ。

タイ初の犯罪鑑識の教科書を出版
鑑識技術を指導することへの熱意

戸島国雄さんは、タイ警察科学捜査局の鑑識課で犯罪捜査の第一線で奮闘する一方、タイ国内各地で講義を開き、捜査員や警察幹部の指導も続けている。

1995年、当時警視庁鑑識課所属だった戸島さんが、JICA(国際協力機構)から専門家として初めてタイ警察に派遣された時、タイの鑑識捜査の現状にあ然としたという。

 

「とにかくひどい状況でした。事件現場へ行くとレスキュー隊や周囲の人が遺体を動かしているし、さらにはカメラマンなどは遺体にまたがって写真を撮っているし、現場保存という概念はまったくなく、それは捜査員にすらなかったですから」

 

それゆえ、迷宮入りする事件も多かったという。日本では、よく事件現場に黄色いテープが張りめぐらされている様子をTVや新聞で目にするが、実はあの黄色のテープは戸島さんの発明だ。

 

「現場を仕切って一般の人の侵入を禁じるため、昔は赤色のロープを使っていました。しかし夕方など、赤色は目立たないので、より鮮明な黄色のテープを提案したのです」

 

戸島さんは黄色いテープの発明で “警視総監賞" を得た。そして現在、タイでも事件現場に黄色いテープが張られている。これは戸島さんが14年前にタイ警察で導入し、被害者の所持品盗難や、現場を踏み荒らされるのを防ぐのに役立っている。

 

講義では、鑑識撮影のポイント、他殺と自殺の見分け方、などを科学捜査の初歩から粘り強く指導。“講義内容をまとめた教科書がほしい"との要望を受け、JICAと日系企業が費用を負担して、約3,000部の本格的な“鑑識教科書"をタイ語で出版もした。戸島さんをそこまで動かす思いは何だろう?

 

「犯罪をなくしたい、事件を解決したい、というのはどの国の捜査官も同じ思いだと思います。タイは犯罪が凶悪化してきているのも事実。タイ警察に私の経験した38年の鑑識経験を活かしてもらいたいのです。とはいえ、タイの犯罪者は意外と証拠を隠さないんですよ。しかも捕まるとすぐに喋る傾向にある。日本とタイでは違うところも結構あります」

事件現場の写真流出を防ぐ JICAがタイ警察に現像機を寄贈

戸島さんは去年、任期を延長した。それは“タイ警察内での鑑識写真の現像技術を確立したい"という思いからだった。時々、地元新聞の一面に悲惨な殺人現場や被害者の写真が掲載されることがある。これは、警察が現像を業者に委託しそこから流出しているケースもあるという。

 

「被害者の無残な姿が世間にさらされることは遺族にとってもつらいことです。また、捜査上許されることではありません」

 

これまで現場写真の撮影や分析などを指導してきた戸島さんの働きかけもあり、去年2月、JICAによってタイ警察科学捜査局にデジタル対応最新式の自動現像装置(約1,500万円)が寄贈された。これによって現像が瞬時にでき、捜査の効率化が期待できる。しかし、鑑識写真の分析(死体の色から読み取る死亡推定時刻)や証拠収集、機械操作の指導など、戸島さんには課題が残っている。

 

「この年齢ですが、捜査現場に立てると同時に事件解決に役立てることを誇りに頑張ってこられました」

 

と戸島さんは話す。

(取材・文 田島美恵子)

※本記事記載の情報は全てWOM Bangkok本誌掲載当時(2009年)のものです。あらかじめご了承ください。

「プロフィール」

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戸島国雄 とじまくにお 

タイ国家警察 大佐 (科学捜査局 鑑識課)

警視庁で鑑識一筋36年。95年に国際協力機構(JICA)派遣の5代目鑑識専門家としてタイ国家警察へ出向。98年任期を終え帰国。定年退職後、2002年からJICAシニアボランティアとしてタイ警察へ再び派遣。現在、タイでの事件解決・鑑識技術の継承に奔走する。

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