コラム人生一度きり第16回 恩をまわす

人生一度きり

第16回 恩をまわす

 私には、どうやって返したら良いかわからないくらい恩義を感じている人が何人かいます。
 
 その中のお一人とは、バンコクで最初に住んだ街の、言葉の通じないクリーニング屋さんで声をかけてくれたタイ人奥さんとの出逢いから始まりました。日本人のご主人がいて、同じコンドミニアムにお住まいだという事でしたが、出逢いから一年間これといった交流はなく、そのご主人と言葉を交わしたのは転居する最後の日。これからお出かけをするご夫婦とロビーで会い、初めましての挨拶から、自己紹介がてらアーティストである夫のことも話したのでした。
 
 今考えても不思議なもので、あの日あのタイミングがなければ、その先の出来事には繋がらなかったのです。夫のアートを気に入ってくれたご主人は、そこからタイで有名なキュレ ーターを紹介してくれ、夫のタイ初個展のプロデュースに加わって下さいました。その方のお仕事には全く関係ないはずなのに様々な方面で気にかけ、個展の成功にご尽力いただいたのです。そのタイでの個展がバンコクから南部、北部を巡回する事に決まった日、ご主人の言ってくれた言葉は、「扉をご用意するところまでは、私の役目です。その先に進むのはあなた方です」というものでした。無償で純粋に私たちの未来に光りを与えてくれようとするお心に、深い感謝の思いで涙したのはつい昨日の事のようです。
 
 一昨年の個展は大成功、新聞やTVにも取り上げられ、作品も売れましたのでキュレーターやギャラリーにも良い結果となりました。ご主人は手放しで一緒に喜んでくれましたが、私はありがたい気持ちと同じくらい申し訳ない気持ちでいっぱいでした。大抵の場合は「お世話になる、お世話する」はお互い様の事が多く、持ちつ持たれつという言葉どおり、双方がWinWinの状態になるように心がけるものです。ところが私はその方に一方的にお世話になってしまっているのです。そして何か相手の喜ぶお返しをしたいと行動するも、逆にさらに「していただいたり」こちらが喜ばされてしまうのです。多分、ご主人は私からの見返りなど1ミリたりとも期待していないでしょう。そして何をしたら恩返しとなるのか、私が思いあぐねている事もきっと想像されていないことでしょう。もう後は「情けは人のためならず」という言葉の意味どおり、ご主人には「めぐりめぐって」思いもよらないところから何かしら良い事がかえっている、と信じるしかない(笑)状態です。
 
 私は少し前から受けたご恩や好意はその本人に返すというより、他の誰かにしてあげるという形で返していくものなのかもしれないと思うようになりました。まだまだ私達がしていただいた事の方が大きく、日々感謝する事の方があまり余ってはいますが、世の中ってそんな風に出来ているのかもしれません。
 
 ともあれ人生は続きます! いつの日かご本人へは、結果を出し成長した私の姿を見せる事によって、違う意味でのご恩返しが出来るように日々努力していきたいと思います。

by hiroko 「結婚・離婚アドバイザー」

来タイ4年目! ライター、ラジオDJ、普段着物愛好家。着物をもっと身近なものにをモットーに、バンコクFM放送局J-channel、毎週月曜日Morning Kissには着物やゆかたで出演中。リクエスト、メッセージなど大歓迎です

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